ドイツ・オーストリアでの住宅用太陽光発電の普及事例2

地域

ドイツのババリアン地方のアウトバーン(ハイウェイ)沿いには多くの太陽光発電所が存在します。

追尾型太陽光発電や騒音防止用に壁面につけられた太陽光発電など、大規模発電所だけではありません。見渡す限り広大な土地には、農業や畜産業を営んでいる家が多く、住宅屋根や資材倉庫の上など至るところの屋根上に太陽光発電が設置されています。

ドイツでは、再生可能エネルギーの35パーセントを市民11パーセントを農家が所有していると言われていますが、アウトバーン沿は顕著にそれがわかります。

立ち寄った太陽光発電所があるババリアン地方では最大の54MWの出力があり、見渡す限りのモジュールの波が広がっていました。

ドイツの太陽光発電所

2009年に稼動を始め、当時の固定買取価格は、0.3194 €/kWh(現在のレートで42円)と高額な買取単価でした。モジュールはQセルズ、架台はKrinnerというスクリュー式の基礎を販売している企業との共同開発です。

ドイツのFITバブルから遅れること2年、2011年にFIT制度が始まる前に、日本市場に参入してきたドイツメーカーのQセルズは、ヨーロッパ市場を含む世界のモジュールの価格競争の激化で、赤字に陥りました。
日本では販売実績は好調でしたが、Qセルズ本体は、ハンファに買収されたのは皆さんよくご存知だと思います。

また、ドイツでは大手のEPCのPhönix Solarも工事が好調なときには従業員数1000人以上を抱える巨大なEPC企業でしたが、現在では事業を縮小しています。
2009年で建設コストは、約3000€/kWh(現在のレートで40万円)、2017年現在では、750€/kWh以下(現在のレートで10万円)。急激な工事費用下落により、大幅なリストラを実施、EPCM(建設・調達・設計管理)という業務にシフトしてきています。

建設自体は、むしろアウトソーシングして、現場監督などのマネージメント業務を行う企業へと変貌しています。今回は、ドイツのFITバブルを経験しながら、今なお売上を伸ばす企業やアフターFITだからこそ必要となった仕組みにより業績を伸ばしている企業について取材をしました。

Fronuis(フロニアス)へインタビュー

その一つが、オーストリアに拠点を置くパワーコンディショナの製造・販売を行っているFronuisです。
Fronuisは従業員数4000人、製品の研究を行うファクトリーだけでも500人の従業員を抱え、全世界に28社の子会社を持つ大企業です。パワーコンディショナの販売数はヨーロッパ第2位で、ヨーロッパでパワーコンディショナと言えば、SMAかFronuisが有名です。

Fronuisは、3世代にわたり一族が経営する会社ですが、創始者が元々技術者兼開発者であったために、会社として短期的な利益よりも持続可能な開発が重要であるという理念も持っています。
“24 hours of Sun”という発想の基に、パワーコンディショナやEV充電システムの開発、蓄電池の販売をしています。

毎年6000人が工場見学に訪れて、その対応に忙しい広報担当のスザンヌ・アンターホルザーさんは、次のようにお話くださいました。

「Fronuisの工場自体にも605kWの太陽光発電、バイオマスや地熱システムを設置し、毎年CO2を削減する努力をしています。工場は3階建てですが、圧迫感を抑えるため、地上部では1階部分しか見えていませんが、工場にはちゃんと光が入るよう工夫されています。
また女性社員が多いため、工場内に保育所を併設し、子供に何かあったらお母さんがすぐ駆けつけられるような体制をとっています。
工場は24時間体制で3交代制ですが、ほとんどのスタッフは毎日違う作業をします。人や部署にもよりますが、仕事へのモチベーションアップは単純作業の繰り返しではなくて、毎日作業を変えることだと思っています。」

“over the limited” 「限界を超えていく」というミッションを持つFroniusの思想をよく反映した工場体制だと思いました。

Froniusを見学

Froniusのショールームには、スケルトンのモジュールの展示やパワーコンディショナはもちろん蓄電池の展示や、EV充電器などの展示もあります。

現在は、住宅で余った電気は余剰電気として、グリッド(系統)に流していますが、蓄電池やEV車と併用することで、グリッドから購入するエネルギーに依存せず、なるべく自家消費する住宅用のシステムをFroniusエナジーパッケージとして販売しています。

EV充電システムは、自動車メーカーAudiのヨーロッパで2番目に大きい自動車製造現場のイントラロジスティクスシステム(物流システム)として採用され、工場内でのすべてのバッテリーを個別に充電できるような仕組みになっています。これにより、バッテリーの寿命が大幅に延長された実績もあります。

「私たちの工場は24時間体制で稼動しています。まず自分たちが節電のために何ができるか考えて、工場内の電気をすべてLEDに切りかえました。すべて切りかえるのに、3年間かかりましたが、結果的に年間で1MWh削減しました。
また、自動販売機のライトを24時間つけっぱなしにするのを辞め、年間1500kWh削減しました。まずは自分たちができる節電から始めること、自分自身が“24hours of Sun”を意識し、再生可能エネルギーを選ぶことから始まると思います。」

今回見学を担当してくれたスザンヌさんがおっしゃった、これらの言葉が非常に印象的でした。

実際にドイツの家庭で取り入れられている再エネ

再生可能エネルギーを賢く使うドイツのご家庭、ギャリー・ワットルバさんのお宅では、新築の際に、太陽光発電地中熱ヒートポンプを導入。

地中熱ヒートポンプの仕組みは、地上1m~1.2mのところにパイプを埋め込み、地上と地中の温度差を利用して地中からの自然エネルギーを再熱する形です。これを、地下を含む1F,2F部分の床暖房として使用しています。

太陽光発電を3.1kW設置し、現在は余剰分を売ったほうが特になるので余剰分を売電していますが、FIT終了後は電力会社の買取価格が安くなるので、売電するメリットがなくなった際には、自家消費にてすべて使用する計画です。
今年8月に追加でつけた太陽光発電は100%自家消費しており、現在は冷蔵庫や洗濯機を使用する際に利用していますが、近い将来EVカーを導入し、太陽光発電から充電できるようなシステムの構築をし、EVカーの充電口も設けているそうです。

「地中熱ヒートポンプの導入は、空気から熱を集めるヒートポンプより導入コストは3倍ほど高いが、地中の熱を集めて水を温めるので、地球に優しい。
また太陽光発電を設置し、今はFIT価格にて余剰を販売しているが、自家消費型のエネルギーの使われ方が主流になるので、EV充電器や蓄電池に溜めたり、使ったりすることで、不安定な太陽光発電も安定させることができる」

ギャリーさんは、今と少し先の未来に対応したエコハウスを楽しんでいるようです。

Enisystの取組み「エネルギーの見える化を」

スマートハウスよりもっと大きな取組みをしているEnisystは、生み出すエネルギー、あるいはロスするエネルギーの見える化により、工場やビル・マンション、町全体でエネルギー消費量を大幅に削減したり、スマートシティの構築をディバイスやソフトの面から解決する会社です。

代表のDr.デュレック・ピータラシュカさんは次のように語ります。

「先週も東京ガスの方が大学のラボにも見学に来られたのですが、我々が提供するソリューションは、“全エネルギーの見える化”をし、どこにロスが出ているか、そのロスをどこで使うかなど、ネットワークを介して把握し、最適化するサービスになります。
コントロールするエネルギーは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーなどの不安定電源も含みます。私は研究を含めこのようなビジネスを40年間おこなっています。」

例えば、6つの住宅での集中管理(すべての熱および電気の流れの記録)およびバッテリー管理を含むヒートポンプの制御や熱利用の監視をおこない、エネルギーがもっとも効率よく使われるようリアルタイムで制御しています。

工場全体のエネルギーマネージメントとしては、工場内にあるオートメーション技術、ロボット、油圧システムで消費されるエネルギーを最適化し、余った電気を系統やPVシステムや蓄電池、EVカーに溜めています。
再生可能エネルギーは天気などにより変動するので、事前に予測して、最適化した電気を購入しています。

そして、町全体の最適化においては様々なツールを使い、エネルギーの生産と消費を把握し、最適化を図っています。

町全体においては、リアルタイムでエネルギーを自動監視し、運用しています。運用とは余っている電気を集め、必要なところに送ることになります。また消費データの収集や表示及び自動請求などの仕組みも取り入れる計画です。

Enisystのシステムは柔軟で多様性があります。そのため、監視と制御はネットネットワークを通じて行い、エネルギーをビル単位、町単位で最適化します。

また、仮想発電所の建設と運用もおこなっています。バリューチェーン全体を構成する再生可能エネルギーを含む、生産者とビルや工場、家など各消費者のエネルギーマネージメントをネットワークでつなぎ、中央制御にて監視・コントロールをします。
仮想発電所の運営者とユーザーの機会・課題を調査し、互いになんらかのメリットがでるよう実証実験をおこなっています。

ドイツのFITバブルが始まって1年目に、自社ビルの屋上に太陽光発電を500kWつけたスチールメーカーMEDAGのCEOハロルド・ガンフォルフ氏は、次のように述べました。

「当時は単純に投資目的で設置した。2年目に、もうひとつの自社ビルの屋上にも太陽光発電を設置したが、容量は大きいにも関わらず、2年目で売電単価が下がったため、売電金額が1割ほど低い。
メンテナンスは定期的に業者におこなってもらっているが、当初のO&M業者は高額だったために、2年目からは地元の会社に頼んでいるが、特に問題は起きていない。
1ヶ月に1回、売電金額を確認するが、太陽光発電をつけてわかったのは、エネルギーは利益も生むが、コストにもなる。自分はスチール会社なので、スチールを切る際にスチールカッターを使い、非常に熱を発し、熱ロスが多い機械なので、この熱を別のエネルギーに転換できないかと考えている。
このように自分たち一人ひとりがエネルギーに敏感になり、創り、ロスを減らしていくということが今後ますます必要になってくると思う」

ドイツの再エネ発展の流れと、それに続く日本の流れ

ドイツは現在、9月の総選挙でメルケル氏が勝利したものの、これまで2大政党だったところへ、第3党目AfD(アーエフデー:「ドイツのための選択肢」)の台頭により、再選挙をするか大連立を図るかなどの対策が組まれていますが、ドイツ人たちも、第3党の台頭で、エネルギー政策に関し、不透明感が増したとの意見が多くありました。

メルケル首相は、2022年までに原子力発電所を全部廃止という公約でしたが、第3党は再エネ法の廃止などを訴え、かなり企業よりで原子力発電所に対しても廃止しない方向で、再生可能エネルギーの政策に関しても今は状況が読みづらくなってきているとのことで、政治によってエネルギー政策は左右されるのはドイツも日本も同じであることを痛感しました。

ただ、ドイツも日本も流れとしては、エネルギーの需要と供給、再生可能エネルギーや原子力などのコントロールをなるべくエネルギーの消費地近くで行い、必要なとこへ必要な分だけを供給し、不安定な自然エネルギーをなるべく安定的に使う。

そして、蓄電池やEVカーなどを利用して、すべてのエネルギーのコントロールを行う、というのが一つの答えで、その先にすでに始まっているVPPやブロックチェーンなどの仕組み構築があるのだということ、意外と日本もドイツと同じぐらいの早いペースで進んできていることを実感しました。(2018年10月取材当時)

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ドイツ・オーストリアでの住宅用太陽光発電の普及事例

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太陽光発電の設計・施工で20年以上の実績。最近では再エネ率の高い電気と蓄電池を併せた提案も好評です。環境にいいこと・持続可能な地球・100年後の子供たちのために様々なソリューションで再エネ普及をしています。

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