【SDGs研修×神奈川工科大学】SDGsと再エネの可能性を知るレポート(前編)

今回は、先日神奈川工科大学で当社横浜環境デザインをはじめ、ソーラーシェアリング第一人者の馬上先生などが講師として参加した「SDGs研修」の内容レポートを公開します。
SDGsと再生可能エネルギーの関係性、再エネ電源としての太陽光発電の可能性や千葉商科大学で“RE100”に向け、実際に取り組まれているさまざまな事例など。今世界を取り巻く気候変動などの環境問題に対し何ができるのかを、ぜひ一緒に考えてみましょう。
<目次>
1.SDGs研修開催の目的
2.SDGs目標7,11「再エネの普及・CO2削減がなぜ必要なのか」
3.クリーンな電力太陽光発電とその仕組み(ソーラーシェアリングとは)
SDGs研修開催の目的
2015年9月25日から27日の3日間、ニューヨーク国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催されました。150を超える加盟国首脳が参加のもと、その成果文書として「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(課題)」が採択されました。
このアジェンダ(課題)の中では、人間や地球、及び繁栄のための行動計画として、宣言と目標が掲げられました。これが17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」です。
この中でも、温暖化対策として脱炭素社会を築くためのSDGs目標としては、次の目標が該当すると考えられます。
目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
目標11「住み続けられるまちづくりを」
目標13「気候変動に具体的な対策を」
日本でも、COP26の中で岸田総理大臣は、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標として2013年度に比べて46%削減すること目指すと表明しました。
この表明では、さらに50%の高みに向けて挑戦していくと強調し、2030年のその先には「2050年カーボンニュートラル」の実現を宣言しました。また、そのための成長戦略の柱として、再生可能エネルギーなど脱炭素化の普及促進を掲げました。
具体的には次のような内容があります。
・再生可能エネルギーなど脱炭素電源の最大限の活用
・投資を促すための刺激策
・地域の脱炭素化への支援
・3000兆円、世界の資金を呼び込む「グリーン国際金融センター」創設
・アジア諸国をはじめとする世界の脱炭素移行への支援
今回は、SDGsセミナーを通じ、SDGsを実践している大学の教授や学生とのディスカッションや「農業×再エネ」の普及の実践としてソーラーシェアリングを見学することにより、気候変動に対し具体的な対策を実際にどのように進めていくかなどについて学生に考えてもらう機会になればと思います。
そして、「自分たちで取り組めるSDGsとは何か」と、その目標を達成するために必要な手段について検討してもらい、神奈川工科大学内での今後のSDGsプログラムや活動につなげることが目的です。
SDGs目標7,11「再エネの普及・CO2削減がなぜ必要なのか」
講師:横浜環境デザイン 赤井智彦氏
気候変動問題と求められるカーボンニュートラルへの取組み
2050年までに地球上におこる変化として、世界の人口は現在の約78億人から約98億人になると予想されています。では、人口が今の1.8倍になるとどうなるかというと、エネルギーは今の1.8倍、温室効果ガスも1.5倍に増えると言われています。

(出典:「2050年 地球に起こる変化」)
温室効果ガスにより地球全体の平均気温が上昇する現象が発生しますが、IPCCという機関の調査では、産業革命後すでに地球の平均気温は0.85℃上昇しているといわれています。
同じIPCCの最新の分析では、このままだと2040年までに1.5℃上昇し、1.5℃上昇すると全種の27%に絶滅の危機があると発表しています。

(出典:全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/))
こうした危機に対処するため、1992年にブラジルのリオで開催された地球サミットでは、“低炭素社会”を目指すことを目的とした国連気候変動枠組条約が採択されました。
その後、1997年に開催された「第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)」では、気候変動枠組条約において、各国が目指すべき具体的な目標が決められました。
そして、2021年10月31日にグラスゴーで開催されたCOP26では、日本からは岸田総理が参加し、改めて国際的な場で以下のことを宣言しました。
“2050年カーボンニュートラル実現と、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく。“
このように、日本もカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること)を目指して、2021年10月22日に日本のエネルギー政策である「エネルギー基本計画」の見直しがおこなわれ、その内容が閣議決定されました。
今後、再生可能エネルギーの主力電源化を進め、このエネルギーと原子力で日本の電力の60%を捻出し、脱炭素化を実現させていくことが決まっています。
再生可能エネルギーの普及とSDGs目標の関係性
今回の研修内容とSDGsとの関係は、2015年9月に国連サミットにて採択されたSDGsの目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」への取組みとして該当します。
また、SDGs目標の達成に向けて取り組むことは、COP21で合意された「パリ協定」の温室効果ガス削減目標に取り組むことと同義になっています。
こうした、国連や世界の枠組みで気候変動の問題に取り組んでいく動きがある中、世界の名だたる企業は「RE100」という、事業運営上必要な消費電力のすべてを100%再生可能エネルギーで調達するという国際イニシアティブに加盟し、企業ごとにコミットしています。
「RE100」への加盟企業数は、2021年12月時点で349社に上り、日本でも63社の各企業が再生可能エネルギー100%で事業運営をおこなうと表明しています。
再生可能エネルギーに太陽光発電が選ばれる理由
再生可能エネルギーの発電方法は、風力や地熱や太陽光など色々ありますが、風力は風が強いところでないと作ることができず、地熱も建設するには開発コストや地権などの課題があります。
その点、太陽光発電は太陽光さえあれば基本的にどこでも作ることができるので、日本では太陽光発電による再エネ電力が今もっとも普及しています。
太陽光発電は、住宅の屋根や、地上設置学校・工場などの屋上に設置するケースから、水上設置などのケースもあります。後で詳しく出てきますが、農地に太陽光発電を設置し、農業と発電事業を両立できるソーラーシェアリングというものもあります。
近年、太陽光業界では、山を切り開いて設置する大規模メガソーラーによる景観や土壌への影響が危惧されています。しかし、それに比べ農地はもともと平なところが多く、農業を優先しながらソーラーの売電で農業収入を支えることができることからも、ソーラーシェアリングの普及は進んでいます。
太陽光発電の仕組み
ここで太陽光発電の仕組みについて、お話します。
太陽光発電は基本的にソーラーパネルとパワーコンディショナで構成されています。
太陽光発電の電気は直流のため、パワーコンディショナで交流に変換しています。また電力会社とのやり取りのため、買電・売電メーターなどが必要になります。
太陽光発電は、陽があるときには発電するのですが、朝や夜など陽がない時は発電しないので、最近では蓄電池を設置して、日中に太陽光発電の電気を貯めておくという賢く使うご家庭も増えてきました。
当社では、RE100加盟企業であるIKEAさまの屋上や駐車場、アジア有数の物流倉庫会社のESRさまの屋上などに太陽光発電設備を設置しています。このように、太陽光発電設備の設置工事を通じて、脱炭素社会の実現に貢献しています。
地元では、三本珈琲さまの屋上に自家消費型太陽発電設備を設置しました。クリーンな再生可能エネルギー由来の電気を工場屋根などで作り、使うことができるので、脱炭素経営や電気代削減を目指す企業さまに大変喜ばれています。
クリーンな電力太陽光発電とその仕組み(ソーラーシェアリングとは)
講師:千葉エコ・エネルギー代表 馬上丈司氏
ソーラーシェアリングとは何か
ソーラーシェアリングとは、太陽光発電で売電収入を得ながら、その設備の下で農業をおこなうものになります。農家さんの収入を売電で下支えするのが最大の目的です。
私たちの大木戸のソーラーシェアリングでは、普段皆さんが口にする野菜だけでなく、土気からし菜などの伝統野菜も作っています。こうした伝統野菜は、作っても儲からないからとやめてしまう農家さんが多いのですが、自分たちは再エネ電気の収入でそうした農業を維持している部分もあります。
また、農業で使うエネルギーを考えてみると、例えばトラクターを利用するのに電気で動かしているものはほとんどありません。ガソリンや灯油、石油などの化石燃料を利用してトラクターなどの機械を動かしたり、ビニールハウスで農業をしたりしているのが現状です。

(総合エネルギー統計2017)
99%が化石燃料を使っておこなう日本の農業は、持続可能性からは程遠いので、私たちは電化や自動化など新しい農業に挑戦しています。
電気をなるべく使えるように、ラジコン式の電動草刈り機だったり、女性でも100kgの荷物が運べる荷台だったり、自動車もEVを使用したりして、農機具の電化や農業従事者が働きやすい環境にしています。
SDGs達成に向けて:ソーラーシェアリングのメリット
私は、私たちが向き合う社会課題やSDGsを達成するために、エネルギーや食料を含めて解決できる仕組みがソーラーシェアリングだと思ってやっています。
太陽光発電は日本中、世界中で太陽さえあれば設置ができるものになります。
私は今回、千葉県のソーラーシェアリングについてお話しているのですが、地熱発電はまず難しいですね。風力発電も風の強い海岸線でないとできなかったり、水力発電も大きな山やダム、川がないとできません。
それに比べて、太陽光発電はどんな場所でも誰でも設置できると考えています。
ただし、太陽光発電は問題も多くあります。大型発電所は山や森を切り開いたところに作っていることや、本当に10年後、20年後を考えたときに大丈夫なのか、などの疑問もあります。
その点ソーラーシェアリングは、売電収入で農業を下支えることができます。「農作業の支障や農機具の取り回しが難しいのでは?」といわれることがあるのですが、私の畑では、さまざまなものが取れ、農業も問題ないと思っています。
【私たちがソーラーシェアリングに取り組む理由】生きるために不可欠なエネルギーと食料を持続可能な形で手に入れる
ここで皆さん、SDGsということを最近よく耳にしますが、SDGsの体現は、一番に普遍的であることがあげられます。
① あらゆる国とあらゆる人が参加し、実践し、持続可能な社会を気付くこと。
② 2番目に不可分であること。
よく企業目標であるのは、「目標の●●と●●に取り組みます」というような企業が多いですが、SDGsはそれぞれが個別の目標ではありません。取り組むと言ったからには、17個全部の目標に取り組むことが必要だということです。
③ 3番目に変革的であるということ。
本当に新しいことをする必要があります。私が小学生だった30年前から農村の担い手の問題や気候変動問題は言われていましたが、いまだ何ら変わっていないということは、より変化・変革が必要だということです。
SDGs目標を達成するには、その過去30年で出来なかったことにあと8年ぐらいで結果を残す必要があります。
そして、これも重要なことですが、SDGsの第1の目標に“貧困の撲滅”が一番に挙げられているというのは、後の16の目標に取り組むことで、全世界の貧困の撲滅につながるということです。
また、目標の最初に貧困の撲滅がきているのは、これが最も大きな問題だからです。
私は、ソーラーシェアリングという仕組みは、あらゆる国のあらゆる人が取り組めて、どこのだれでもエネルギーや食料を手に入れることができる手段だと考えています。
SDGs目標1:貧困問題は日本にもある
皆さん、貧困は日本にもあるとご存じですか?
このスライドを見ていただければわかりますが、これは先進国の子どもの貧困数を表すものです。図によると、日本の子どもの5人に1人は相対的貧困であると言えます。

(出典:「平成25年国民生活基礎調査」)
これはつまり、1学級30人いたとして、その中の6人は貧困状態の子どもがいるということになります。この数字は2014年ベースなので、今はもっと悪化していると思われます。皆さんのように、大学に進学できない子どもも増えています。
農村の衰退が言われて30年以上たった現在、なぜそれが解決できていないのか、大人も交えて話すことが必要だと思います。
今の若い皆さんにこの問題の解決をゆだねるのもおかしな話なのですが、とにかく食料もエネルギーも危機的なところに来ていますので、一人ひとりが考えて、行動していくしかないと思います。
私は人口97万人の千葉市の郊外で農業をやっていますが、それにしても過疎化がひどいです。これからは、エネルギーも含め、食料についても自分事として考えることが必要です。
農業人口の衰退と抱えるフードロスなどの課題
私も農家として、いろいろな作物を作って売っているのですが、消費者は本当にわがままというか、良いものでもなるべく安いほうがいいと思っています。
もちろん、立場によって考え方が違うのは当然ですが、農業の担い手がいなくなったり、作り手が減っているので、これからはお金があっても食料が買えないなどの状況になっていきます。
ソーラーシェアリングは、農家さんの収入を売電で下支えするのが目的ですが、一方で先ほどお話したように、農業は化石燃料や重油、石油などを燃やして耕作をしていて、電気の部分はわずか5%です。
どれだけ電気のところを100%再エネにしても、化石燃料の使用をやめない限り、持続可能な社会とは言えません。
生産者である農家の人口は、1960年には1454万人だったのが今や136.3万人になっています。

(出典:農林水産省「農業構造動態調査」)
農業をする人が大きく減った理由には、高齢化や農家をやっても儲からないから後を継がせないなどがあると思います。皆さんも、安くておいしいものは食べたいけれど作るのは嫌とか、農業と直接の接点がないので進路の選択肢に入らないといった方多いと思います。
しかし足元では、日本だけでフードロスが約600万トン/年あり、その一方で、世界の食料援助は約420万トンという現状があります。日本の農業や食の考え方を、自分自身で改めて考え直す必要があると考えています。
今、皆さんには夢があると思うのですが。現在の社会がそのままあっての人生設計であって、この社会基盤が変わってしまったら、どうなるのでしょうか?
エネルギーが満足に使えない、食料を十分に買うことができない、清潔な水も手に入れられないとなったら、そんな社会でも皆さんの夢は実現できるでしょうか?
深刻な食糧問題や地球温暖化について考えよう
今ギリギリのところにある食糧問題は、2030年までの残り約8年で結果を残す必要があります。
日本では今、「SDGs」という言葉が先走っており、「気候変動」や「地球温暖化」というキーワードでの関心には連動していないことがGoogleの検索データからわかります。
対して他の国では、「SDGs」というキーワードで検索されるケースは少なく、地球温暖化を示す「Climate change」というキーワードでの検索ボリュームが非常に高いです。
日本人は今SDGsという言葉がトレンドで、バッチを付けた人も多くいますが、海外に比べて本当の意味で何が問題かということを理解していない可能性があります。
農家の減少や地球温暖化という問題は今に始まったことではないですが、これまで数十年もかけてなんら解決をしていないということを周りの大人とよく話し合い「では、これから8年で結果を出すには、自分は何をしたらいいか」を考えて、行動していただければと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか?
地球温暖化や気候変動、それに繋がる食糧問題などについて詳しく知る機会になりましたでしょうか。
また、解決方法のひとつとして、再生可能エネルギーの普及、中でも太陽光発電を活用したソーラーシェアリングの拡大がさまざまな問題を改善できることがわかったかと思います。
後編では、千葉商科大学で実際におこなわれている「RE100」への取組みや事例などについてご紹介します。
近日公開いたしますので、引き続きお楽しみに!
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