【SDGs研修×神奈川工科大学】SDGsと再エネの可能性を知るレポート(後編)

今回は、先日公開した神奈川工科大学での「SDGs研修」内容レポート後編となります。
後編では、千葉商科大学が“RE100”に向け、大学内だけでなく地域や学生と連携し、実際に取り組まれているさまざまな事例などについて詳しくお話いただきました。省エネとしての取組みから創エネとしての取組み、大学内の意識改革方法など、気になるポイントが盛りだくさんです。
今世界を取り巻く気候変動などの環境問題に対し何ができるのかを、ぜひ一緒に考えてみましょう。
<目次>
1.千葉商科大学「自然エネルギー100%大学」への取組み
2.日本初の自然エネルギー100%の大学から生まれた学生団体「SONE」
3.終わりに
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千葉商科大学「自然エネルギー100%大学」への取組み
千葉商科大学 基盤教養機構 兼務CUCエネルギー株式会社 手嶋進氏
千葉商科大学は1928年に創立しました。
千葉県市川市にあり、学生は約6,500人が在籍しています。
建学の精神として、ビジネス倫理を培い、社会や自然に貢献していくことを掲げています。
自然エネルギー100%大学の理念として「再エネ100%社会」は、地域でエネルギー分散型社会を作っていくのが目標となります。その形成には、再エネの責任ある創出と、責任ある消費が必要です。
SDGs目標としては、7,11,13に加え、12「つかう責任、つくる責任」も該当する目標テーマに掲げています。
千葉商科大学でおこなった大きな省エネ/創エネ例
千葉商科大学では、基本的に自分たちで使うエネルギーぐらいは、自分たちで生み出しましょうという考えでおこなっています。
自然エネルギー100%の下地作りは、本格的には2017年から始めましたが、2013年から今の学長の原科 (はらしな)が学内合意に向け意識形跡などをおこないました。
そして、2015年からは何とか自然エネルギー100%でできるのではないかということで、補助金交付を受けて可能性調査を始めました。
「ネット・ゼロエネルギー・キャンパス化可能性調査」では、省エネでもっとも効果があるのは照明をLEDに変えることだと判明したので、実現にはいくらかかって何年で償却できるかということを計算した上で、ほぼ全館にLEDを導入しました。
プロジェクトを開始するにあたっては、2つの環境目標を設定しました。
ひとつめは、市川キャンパスなどで消費する年間電力消費量相当またはそれ以上を、年間で大学の敷地にて再生可能エネルギーを創出すること。ふたつめは、電気だけでなく都市ガスも含めたエネルギー消費量を創出することです。
2019年には、電気の100%を達成し、2020年には電気・ガスの目標を達成しました。
ですが、2020年はコロナ禍で学生がキャンパスにきていないこともあり、消費量が通常時より下がっているという理由から、目標を本当に達成したとは言えないため、2023年にはコロナが収まって学生がキャンパスに戻ってきていることを想定して、目標達成時期を2023年3月までに延長しました。
千葉商科大学「3本の矢」取組み事例
千葉商科大学の自然エネルギー100%の取り組みは、ハードウェア・ソフトウェア・ハートウェアの3つの分野で取り組んでいます。
ハードウェア:太陽光発電やLEDなど設備に関すること
ソフトウェア:見える化システムなどのソフトウェアに関すること
ハートウェア:啓発活動を含めた行動を起こさせるような意識変革につながるようなこと
ハートウェアに関しては、主に学生団体「SONE」が取り組んでいます。具体的には、節電などの意識がないと省エネ行動につながらないというところで、啓発活動を含めた意識変革につながるようなイベントや仕組みをおこなっています。
ソフトウェア:省エネ事例
ソフトウェアについては、LEDに変更したのが非常に大きい削減だったのですが、それ以外にもさまざまな取組みをおこないました。
例えば、学生たちが学内にあった38台の自動販売機のエネルギー消費量や、1日当たりの販売本数を調べました。その結果を踏まえ、あまり使われていない自動販売機を撤去したり、古い自動販売機は非常に電気を使うため新しい省エネ型の自動販売機に変更したりなどしました。
消費電力と省エネ効果クイズ
ここでクイズです。
照明を蛍光灯からLEDに変えると、どれくらいの省エネ効果があるでしょうか?
答えは、Cです。
1/3まではいかないですが、30%以上削減できます。
次に、クイズ②です。
自動販売機1台分の年間電力消費量は、家庭の電力消費量に置き換えると、次のABCのどれと近いでしょうか?
答えは、Bの「家庭の照明と冷蔵庫1台分の1年間の消費料合計」に近いです。
自動販売機の電力消費量も現在はかなり省エネ効率が上がっていて、1年間の電力消費量は500kWhほどです。
これらのさまざまな活動をおこない、実際に省エネの成果として、2年間の省エネ活動で削減した量は、原油換算で年間335kL(120万kWhの電気と2万3千m3の都市ガス)の削減、CO2は664tを削減しました。
ハードウェア:創エネ事例
千葉商科大学では、野田発電所で年間350万kWh(875世帯分の消費電力に相当)、キャンパス10棟の屋上で59万kWh(147世帯分)の発電をしています。後者は横浜環境デザインの協力を得て、発電設備を設置してもらいました。
野田太陽光発電所については、発電した電気が物理的に直接キャンパスに届いて、その電気を使っているというわけではありません。野田発電所の電気はFITを使って送配電事業者に売電しています。
しかし、小売電気事業者に依頼して野田発電所を指定してトラッキング付き非化石証書を購入していることで、野田の電気と紐付けして、バーチャルに自分たちで発電した再エネをキャンパスで消費しているようなイメージになります。
また、太陽光発電設備で作った電気は夜は使えませんし、電気の悪い日は賄えませんので不足する分は、本学とは関係ない風力発電所で発電された電気を購入しています。
せっかく屋根の上にパネルを設置するので、学生たちに寄せ書きをしてもらいました。数年後に卒業生となった彼らが、屋根の上に上がり、またそのパネルをみる機会を設けたいと考えています。
よく、「太陽光発電設備のコストが高いので設置しない」という声を聞くのですが、今は買う電気のほうがかなり高くて、発電した電気はかなり安いです。
千葉商科大学の場合は補助金を使ったので、電気の単価は次の通りです。
発電単価:14.4円/kW
補助金を使わない場合でも:17.5円/kW
皆さんもよく考えてほしいのですが、ご自宅の電気代はいくらぐらいでしょうか?
もちろん契約にもよるし、一概には言えないですが、おそらく料金単価が28円~29円で計算された電気料金を支払っていると思います。
それに比べれば、再エネの電気は非常に安いと思います。
電気は買うよりも作ったほうが安いということが言えます。
太陽光発電設備導入方法の仕組み
千葉商科大学とは別にCUCエネルギー株式会社という会社を立ち上げ、このCUCエネルギーが借入、補助金、調達などをおこないました。CUCエネルギーが保有した設備を、千葉商科大学はリース料として17年間支払うスキームになっています。
実務作業などの部分はCUCエネルギーが受け持つことで、大学はリース料だけを費用として効果を検討すれば良いかたちをとれました。
もし、年間消費量が通常のレベルに戻ったとしたらおそらく現在は、達成度合いとしては95%ぐらいでしょう。ここからは何十%みたいな省エネはできないので、1%や0.5%など、とにかく細かな施策を積み上げて省エネ活動につなげていくことになります。
千葉商科大学では今度、蓄電池も導入します。
目的のひとつは、発電した電気を無駄なく効率的に活用するためです。
現在、太陽光発電で作った電気がキャンパス内の消費量より上回るということがあり、その余った電気を捨ててしまうのはもったいないので、蓄電池にためて発電した電気を無駄なく蓄電し、活用しようと考えています。
しかし、一番の目的としては、災害対策という意味合いが大きいです。周囲がブラックアウトした際に太陽光発電の電気を有効活用するのが目的です。
ハートウェア:省エネ事例
ハートウェアについては、ハートウェアの取組みを担当しているSONEの活動に関して学生から後ほどお話があると思いますので、詳しくはそちらでお話させていただきます。
ソーラーシェアリングの設備も、小さいものですが設置しました。これは、学生自身がクラウドファンディングで約338万円を集めて、そこでワインを作る取組みなどもやっています。
また、このように千葉商科大学の活動を自分たちだけでおこなうのではなく、いくつかの大学や大学の学長さんに参加してもらい、「自然エネルギー大学リーグ」というものを立ち上げています。
これは学長さんだけでなく、学生も個人で参加できたり、教職員の方も個人で参加できますので、興味がある方はぜひ参加してください。
大学として「自然エネルギー100%」に取り組んだ効果とは
自然エネルギー100%大学を目指すと発表したときは、メディアに111件も取り上げられました。こうした目標は、私の印象では広報的効果も高くあると思います。千葉商科大学は自然エネルギー100%の大学だということを知って、入学する学生も増えてきました。
こういった活動は、1年であきらめないことが重要です。見積もりなどをもらって、複数年単位で計画していく必要があります。すぐには採算が取れなくても、2,3年後に再度検討したらコストが下がっているなど状況が変わってくるので、継続的に検討することが重要です。
もちろんコストはかかりましたが、経済的効果だけでなく、さまざまな効果があったと思います。
日本初の自然エネルギー100%の大学から生まれた学生団体「SONE」
千葉商科大学 商経学部 1年 桜井 尊さん
学生団体SONEとは「Student Organization for Natural Energy」の略で、次の理念と目標を持っています。
理念
「学生・教職員に無理をさせない省エネ活動」
活動目標
「自然エネルギー100%達成(電気・ガス)」
先ほども手嶋先生から説明がありましたが、CUC環境政策には3本の矢があります。
千葉商科大学では創エネや省エネ設備の拡充をおこなう「ハードウェア」、エネルギーマネジメントシステムなどで電力を見える化する「ソフトウェア」、そしてエネルギーの無駄調査や打ち水で涼しく大作戦!など行動につながる意識啓発をおこなう「ハートウェア」の3本の矢です。
ハートウェアを担うSONEの活動
打ち水で涼しく大作戦
こちらは、2016年から毎年開催しており、多い時は4日間で300人もの参加がありました。また、打ち水前後の路面の温度変化は最大で7℃以上を観測し、実際に効果があることもわかりました。
再エネを活用したイルミネーション
こちらは、太陽光パネルで発電した電力でイルミネーションを点灯させ、学生に再エネを身近に感じてもらえるようなイベントです。アンケートでは、自然エネルギーへの関心が高まったかという質問に対し、70%が「はい」と回答しました。
仕掛け学で省エネ
こちらでは、さまざまな小さい仕掛けを効果的なポイントにおこなうことで、省エネを推進しました。
仕掛け学とは、人の意識や行動をさりげなく変化させる学問を使ったものです。
例えば、トイレの蓋に開けていると「バイキン」のマークが出てきて、閉めると「にこちゃん」マークが出てくるという仕掛け。または、電気のスイッチ部分に、電気を切るとハートの形ができ、電気をつけるとハートの形が割れるように見えるシールを貼ったりしています。
今のところ、すごく効果があったという結果は取れてないのですが、今後も仕掛け学で学生が自然と省エネ活動ができるような工夫をおこなっていきたいと思います。また、窓を2重窓や断熱材を活用し電力の削減をする活動も、一部の窓を2重窓にして現在検証しています。
SONE:2022年度に向けたアプローチ
“2023年自然エネルギー率100%達成”に向け、今年は学生を多く巻き込むために、SNSでの告知などを利用して集客をしていこうと考えています。
終わりに
いかがでしたでしょうか?
自然エネルギー100%大学を理念とし、大学内の電気の使い方や消費量を分析して省エネをおこなう「ソフトウェア」での取組みから、実際に太陽光発電所や学校屋上への太陽光発電設置、そして蓄電池の導入などにより消費した電力を自分たちで創り出して補う「ハードウェア」の取組み。
最後に、学生がメインとなりおこなっているさまざまな意識改革への「ハートウェア」な取組みなど、千葉商科大学では大学が一丸となって自然エネルギー100%を目指していました。
これらの取組みには、経済的なメリットだけでなく、大学そのものにも新しいイメージ効果を生み出すことができます。
今や、さまざまな企業でも積極的に取り組まれているSDGs目標達成。大学などでも当たり前のように取り組まれる未来が、もうすぐそこまで来ています。
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