ドイツの事例:スマートシティ・仮想(バーチャル)発電所システム構築する会社「enisyst」

日本でも家のエネルギーの見える化や年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯など)と太陽光発電を設置し、創エネ性能をあげ、同時に断熱性・省エネ性能をあげることによる創るエネルギーと省エネ効果を行うことで、消費エネルギーとの収支をプラスマイナスゼロにする「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」に向けた動きは加速しています。
しかし、このスマートハウスよりもっと進み、工場やビル・マンション、町全体でエネルギー消費量の削減、エネルギーを生み出す機器のネットワーク制御による無駄を省き、効率化を図るシステム構築や、スマートシティの構築を試みている企業があります。
今回は、そんなシステム構築をディバイスやソフトの面から解決するドイツの企業enisyst(エネシスト)を取材しました。
代表のDr.デュレック・ピータラシュカ氏は大学教授も兼任しており、Dr. ピータラシュカ氏によると「前にも日本の大手ガス会社の方が大学のラボにも見学に来られたのですが、われわれが提供するソリューションは、『全エネルギーの見える化』で、どこにロスが出ているか、そのロスをどこで使うかなどをネットワークを介して把握し、最適化するサービスになります。コントロールするエネルギーは、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーなどの不安定電源も含みます。私は研究を含めこのようなビジネスを40年間以上おこなっています。」とプレゼンの冒頭から様々な事例の紹介をしてくれました。

enisyst代表 Dr.デュレック・ピータラシュカ氏
例えば、ドイツのフェルバッハで実施しているマンション3棟のエネルギーマネジメントプロジェクトにおいて、

【プロジェクトの概要】
・合計48戸の住宅3棟
・生活空間3.266㎡
・暖房・給湯需要:247 MWh / a
・電力需要:126 MWh / a
・太陽光発電(60kWp)とコジェネレーションの設置
(22kWel)で、熱と電力の供給

システム構成図
結果として、熱源供給システムの設置により必要な暖房需要の97%を賄うことに成功しています。また全体のエネルギーの需要に対して、太陽光発電とコージェネレーションシステムにより60%をカバーしています。このようなシステムを導入した際、償却期間や初期導入コストは入居者にダイレクトに係わりますが、このシステム(太陽光発電とコージェネレーションシステム、この2つをコントロールする)導入費用は、約7年間で償却できることがわかっています。
このマンションは、再生可能エネルギーを活用しているので、現在の石油などのエネルギーの価格変動を受けず、継続的にエネルギーコストを削減するこができます。最終的に住民の光熱費削減に貢献することができ、入居希望者にも魅力を感じてもらえるような住居となります。
エコハウスは、ただ単に自然のエネルギーを活用し、環境に優しいといったイメージアップだけの集客効果だけではなく、今後価格など不透明な化石燃料になるべく頼らず、太陽光発電の電気・廃熱などを利用して冷水や温水にし、エネルギーとして使用することで、結果的に光熱費削減につながり、自然にもお財布にもやさしい住居として、永続的に入居者希望が絶えない、常に人気がある住居となります。

マンション3棟のエネルギーマネジメント結果グラフ
また、enisystは、太陽光発電や風力発電、火力・原子力発電所などの供給側と蓄電池システムやEVカーなどの需要側で工場や一般住宅、学校などのエネルギーを仮想(バーチャル)発電所として運営、コントロールするプロジェクト「バーチャル発電所ネッカーアルブ」にも参画しています。

バーチャル発電所 Neckar-Alb(ネッカーアルブ) ネットワーク

仮想(バージャル)発電所エネルギーの需要と供給イメージ
バーチャル発電所では、IT制御により需要と供給のデータ授受のみが行われているイメージだと思いますが、enisystが関わるシステムは、実際の供給機器側と負荷機器側の制御をする部分になります。下記のフロー図をご覧いただくとよくわかると思います。enisystのシステムは、火力発電や原子力発電といった大規模発電所のコントロールではなく、もっと低エネルギーで流動的なエネルギーの制御を行っています。供給側は、熱・太陽光発電ヒートポンプシステムなどがあり、天気に左右されるエネルギーも多く、細かく管理・制御する必要があります。
また需要側は、一般住宅や工場等こちらも様々ありますが、供給側の不安定なエネルギーを蓄電池等に蓄え、その蓄電池から負荷側でエネルギーが切迫した際に放出したり、電力会社から購入したりといったことを一括制御します。このような低エネルギーの制御コントロールをおこなった上で、その上位の管理レベル・戦略的管理においては、大量のデータの処理から予測、また天気に左右される自然エネルギーの予測、実際との差異が発生した際の供給システムや負荷を制御するシステムへのコントロールなど、もう少し中長期的な予測などが必要になってきます。

需要と供給制御のコントールイメージ図
バーチャル発電所では、このような実際の機器制御・コントロールだけではなく、バリューチェーンを形成する需要家・供給者がそれぞれ、何らかのインセンティブを与えたり、金銭の授受をおこなったり、またビットコインのような新しい報酬を得たりすることも可能です。
Dr.ピータラシュカ氏によると、「プロジェクト初日、ありとあらゆる種類のエネルギーの見える化やその先の制御、コントロールのプログラミングを実行する時は、ナイトメア(悪夢) のようだ。しかし構築したシステムがうまく動かず、エネルギーの全体をきちんと把握できていなかったり、コマンドが違っていても、我々のシステムではそれを修正し、どんどん進化させていく。この一つ一つの作業そのものが不安定な電源の安定コントロールや、エネルギーの削減に繋がる。」とのこと。
バーチャル発電所という言葉を私自身は、少し近未来的なロボットやAI的なイメージで捉えていましたが、今回の取材でこのような技術者や研究者が一つ一つの課題を解決しながら実現しているものであり、また再生可能エネルギーの導入や普及はドイツの方が10・20年先へ進んでいるといわれていますが、日本はIT分野や機械工学分野の技術が優れているので、バーチャル発電所などのエネルギー制御コントロールや仮想通貨の流通システムの構築も、ドイツと同じようなスピード感で実現できる分野だと思いました。(2018年10月取材当時)