【防災拠点にも】ソーラーシェアリングで循環型地域づくり[千葉県匝瑳市の場合]

地域

3月4日、神奈川工科大学SDGs研修の2回目として実地研修を予定していましたが、コロナの影響で、千葉商科大学さんや千葉の匝瑳にあるソーラーシェアリングの設備見学ができなかったため、ZOOMにて実地研修をおこないました。

このレポートは、千葉県匝瑳市にある当社のソーラーシェアリングの下で、齊藤さんにセミナーをしていただいた様子をまとめたものです。

きっかけは東日本大震災:ソーラーシェアリングで農地も地域も再生する

齊藤 超さんがソーラーシェアリングを始めたワケ

私は、東京から80km東にある千葉県匝瑳市で農業と農業法人を営んでいます。匝瑳市は植木や稲作が盛んな農村地域で、九十九里海岸に面しているのでサーフスポットもあります。
また、「みやもと山」1300年続く農村集落の代々農家です。2018年に事業を継ぎ、有機栽培の米作り、大豆の栽培、味噌などの加工をしています。すべての農産物を直売です。

ソーラーシェアリングを始めたきっかけは、2011年3月11 日に起きた東日本大震災で、福島第一原発の事故を生活者として経験して、暮らしに大きな不安を感じたためです。

農業的にも販売不振、放射能の影響への不安などがあり、原発反対デモなどにも参加してみたりしましたが、反対するだけではなく、「地域で再エネを増やしていくことはできないか?」と考えました。また、農家としてニーズのあった有機大豆を広域で作ったり、有機農業を増やしたいという思いもありました。

ソーラーシェアリングとの出会い

そんな時、ちょうど近隣の地域にソーラーシェアリングが建設されました。

「畑で再エネなんて良い感じ」と思っていたところ、そのソーラーシェアリングの発電事業者である市民エネルギーちばの役員と元々知り合いだったこともあり、2015年冬、ソーラーシェアリングでの農業法人立ち上げをおこないました。

そこから、再エネの普及と有機農業の規模拡大への挑戦が始まりました。会社としての目的は、おおよそ40年前に耕地整理された匝瑳市飯塚開畑地区の再生です。

房総丘陵と呼ばれた谷津田と小高い森林が入り組んだ地域を北海道の農地のように整理した開畑は、農業に重要な作土層が削り取られてしまいました。おまけに、山の粘土が剥き出し状態で良い畑がほとんどないです。
そのため、耕地整理の目的は外れ、休耕地や耕作放棄が拡がってしまいました。30年ほど前から役員である寺本の父が大豆と麦で多くの農地を再生したのですが、それでも休耕地などは残っていました。

そこで、ソーラーシェアリングを活用し、そうした休耕地などを再利用して、再エネと有機農業での農地再生に取り組んでいきました。

休耕地を利用してソーラーシェアリングの設備を建設、その下で農業をおこなっている

「Three little birds」とは?概要紹介

農業生産法人Three little birds は、2016年2月に設立しました。

■栽培作物:小麦・大麦・大豆(千葉県君津地方の在来大豆など)・小豆の試験栽培
※すべてJAS有機の申請済み

【メンバー】
■齊藤 超(代表社員):有機での専業農家・大豆トラスト活動
■佐藤慎吾 (代表社員):有機での専業農家・酒米作りなど
■寺本利行(代表社員):元料理人の専業農家
■椿 茂雄:地元で大変大きな信用。低農薬米つくり
■越智雅紀:2015年より匝瑳市移住の新規就農者
■市民エネルギーちば株式会社(本店/匝瑳市飯塚)
■千葉エコ・エネルギー㈱(支店/匝瑳市飯塚・本店/千葉市)
<外部スタッフ>
■高坂勝:ダウンシフターズ著者。都市農村交流なども開催

【匝瑳市飯塚/開畑地区の耕作放棄地の状況】
■完全放棄地:133,651㎡
■半放棄地:31,304㎡
■耕作状況不明:19,829㎡

【ソーラーシェアリングによる活用計画(~2020)】
■メガソーラー:32,000㎡+50,000㎡
■小規模発電所:29,000~47,000㎡
■合計再生面積:106,504~124,504㎡
※市民エネルギーちばの調査による


基本的に、若手が中心となってこの農業法人を立ち上げ、耕作放棄地の再生を目的にソーラーシェアリングをおこなっています。ソーラーシェアリングによる発電と農業の両立を図る取組みは、主にSDGs目標15「大地を守る」ことを目標としています。

通常の太陽光発電所(メガソーラー)とソーラーシェアリングの違い

「メガソーラー」と呼ばれる通常の野立て発電所と、ソーラーシェアリングの違いは何か?と問われれば、私が真っ先に思うのは、ソーラーシェアリングは地域にお金が落ちやすく、地域でお金を循環しやすいことであると思います。

また、ソーラーシェアリングは、通常のメガソーラーに比べ、耕作放棄地を畑に復活させたり、停電時に地域の防災拠点としても活用することができます。

皆さんのところではどうだったかわからないですが、実際に2019年、千葉に大型の台風が直撃して、この地域を含む千葉県全域が大打撃をうけました。

停電も発生してしまって、当時は大変困ったのですが、その時にソーラーシェアリングの設備についている100Vの電源から電力を取って、携帯電話の充電などをおこなうことができました。

100Vのコンセントをソーラーシェアリングの設備に設置、災害時に無料充電所として使用

ソーラーシェアリング最大のメリット:地域でお金が生まれ、分配される

先ほども述べたように、再エネの普及に役立っているソーラーシェアリング(匝瑳モデル)の最大のメリットは、売電収益を地域に作り、農業へ配分し活かしている点です。

つまり、地元にお金の流れが生まれることがメリットとなります。

匝瑳市のソーラーシェアリングの事例だと、20年間の合計で3億2800万円以上のお金が地元に分配され、循環させることができました。

「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」の事例

1.工事費用:地元の業者&企業&個人へ(8千万)
2.固定資産税:匝瑳市へ(350万/初年度⇒20年で2千万以上)
3.耕作協力金/管理費:地元農家へ(200万/年×20年固定)
4.地代:地元地権者へ(80万円/年×20年固定)
5.環境対策費:地元協議会へ(200万/年×20年固定)
6.見学者から:物販・飲食・サービス(半期で600名以上)体験学習会・研修会・イベント
7.法人事業税:匝瑳市へ(60万以上/年×20年)
8.発電事業者利益:地元企業分(600万円/年×20年)
→20年合計で、地元に3億2,800万円以上のお金が配分⇒循環

ソーラーシェアリングのいいところはまだまだあります。例えば、次のように脱炭素やCO2削減にも貢献することができます。

①再エネ発電でCO2削減
②農作物の光合成でCO2削減
③有機農業でCO2削減

ソーラーシェアリングの設備は、トラクターなど機械作業ができるように設計されています。太陽光も、長方形のソーラーパネルをジャバラ状に設置することで、作物に3割、発電に7割の割合でシェアすることができています。

こちらのソーラーシェアリングの場合:作物に3割、発電に7割の割合で太陽光がシェアできる設計で建設

ソーラーシェアリングで地域づくり:連携して地域循環を目指す

設立後、初の作付けは無農薬大豆を1t近く在庫にしてしまい、有機農家のネットワークを頼りに契約先を見つけました。

現在では、千葉県市川市にある福祉事業所「みののむら」と取引が始まり、2018年には農商工連携事業の認定を受け、大豆コーヒーやもち麦クッキーの原料栽培も始まりました。
「みののむら」では、自分たちが作った有機大豆を使って、デカフェコーヒーを作って販売しています。アマゾンなどでも販売していますので、ぜひ購入してみてください。
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地域づくりの仕組み例

さまざまな分野で連携する地域づくりの仕組みとしては、下記の図のようになります。


また、「豊和村つくり協議会」というのを立ち上げ、循環するお金のシェアで地域づくりもおこなっています。

これにより、農業部門と同額のお金が地域基金に役立てられます。例えば、不法投棄された大量のゴミを片付けて畑の公園づくりや、芋掘り体験農場の管理など、地域の活性化に利用されています。

こうした農業と地域の取組みが評価され、2019年には「未来につながる持続可能な農業コンクール」の関東農政局長賞を受賞しました。

ソーラーシェアリングでSDGsに取組む:不耕起栽培への挑戦

最近は、RE100やSDGsに取り組む企業が増えています。自分たちもサステナブルな目標に共感し、持続性の高い農作物の生産方法の進化をさせていくことを目指しています。

特に、目標12「つくる責任、つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標15「陸の豊かさも守ろう」などの目標を達成するために活動しています。

その一つとして、2021年からは「リジェネラティブ・オーガニック(RO)」という農法を試験的に開始しています。リジェネラティブ・オーガニック農法では、オーガニックなものや被覆作物を育て、不耕起栽培に挑戦します。

不耕起栽培とは?
「耕起栽培」は土壌を掘り起こし、かきまぜ、ひっくり返す慣習的な農法です。対し、「不耕起栽培」とは農地を耕さずに作物を栽培する農法を指します。耕起栽培農法の必要性を削減することで、土壌が水分と有機物質を保持し、潜在的により多くの炭素を隔離することにつながります。

また、2019年の停電時に、ソーラーシェアリング設備の電気を使用できたことを有効だと市長が考えてくれました。そして、今後災害時には、ソーラーシェアリング設備の電気を近くの施設に送り、独立してそこに電気を送ることを決めました。

災害があっても自分たちは大丈夫です。こういった取組みがこの地域では広がっています。

地域で新しい再生可能エネルギーの基盤をつくる

売電収入はFITという固定電力買取制度による制限がありますが、今後、太陽光発電システム関連の設備費は下がっていくと言われています。

私たちの耕す匝瑳市飯塚地域は、後継者不足耕作放棄地の問題牛糞を大量に投入する捨て作が問題となっていたため、多くの地権者にも賛同していただけて、大規模なソーラーシェアリングに取り組むことができています。
日本の農業はこれから、後継者や担い手の規模拡大が課題となっていくはずです。その課題には、ソーラーシェアリングはうってつけの仕組みではないかと考えています。

ソーラーシェアリングで地域の新しい再生可能エネルギーの基盤をつくることは、次のようなメリットから担い手の経営が強化できるため、より多くの農地を活用した農業に成長できるでしょう。

・災害時の利用や再エネでのco2削減
・農地をフル活用した売電と営農の二本立て経営
→農村の景観を支える土地利用型作物、米、麦、大豆は薄利なため、売電で事業をバックアップ

また、匝瑳モデルのように売電収入を地域づくりのために循環させることで、地域一帯となっての村づくりができる可能性があります。例えば、移住者受け入れや小商事業のスタートアップサポート、都市農村交流などなど…。

現在も、いくつもソーラーシェアリングの設備を建設中です。
ソーラーシェアリングで農業の再生や雇用の創出などが実現できています。

再エネと農業は、とても相性が良いと思います。
匝瑳モデルの仕組みが各地域に拡まること願って、この事業を頑張っていきます!

<今取り組んでいる農業について用語解説>

オーガニック
オーガニック農法は合成殺虫剤、合成肥料、遺伝子組み換え技術、抗生物質および成長ホルモンの不使用を意味します。
被覆作物
土壌の有機物質を増加させ、炭素を土壌に隔離し、土壌侵食を削減するために、農家は主作物に加えて被覆作物を育てます。
コンポスト
農家は農場廃棄物をコンポストに変え、土壌のための自然の肥料および殺虫剤として利用します。
輪作
輪作は生産者が作物の種類と場所を周期的に変える体系的なアプローチです。
間作
複数種の作物を密接に植えることにより、収穫高と土壌の健康を徐々に向上させることができます。
省耕起から不耕起へ
耕起は土壌を掘り起こし、かきまぜ、ひっくり返す慣習的な農法です。この農法の必要性を削減することで、土壌が水分と有機物質を保持し、潜在的により多くの炭素を隔離することにつながります。

あとがき

ソーラーシェアリングは匝瑳から各地に広がったと言っても過言ではないほどです。

ソーラーシェアリングは、太陽光発電所と農業を両立させるものとしてだけではなく、地域へお金を落としたり、過疎化の歯止めになったりとその効果は絶大です。

ただし、これはただの仕組みづくりではなく、匝瑳の方の地域への思いや農業への熱い思いが形になって、ソーラーシェアリングの仕組みを動かしています。つまり、この仕組みにコミットする“人と人のつながり”がもっとも重要で価値があるものだと考えられます。

このような画期的な取組みが地域を少しずつよくしていき、過疎化や農業の担い手不足の一助になればいいと思います。

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