日本の農業の課題と食料自給率への解決策に「アグリテック」が描く未来と事例
「アグリテック」とは
「アグリテック(Agritech)」とは、“農業(Agriculture)”と“技術(Technology)”を組み合わせた造語です。その名の通り、農業にIT技術を用いて農業従事者の負担軽減や、農作業の効率化などを実現するために活用されます。
農業が抱える課題解決の手段として、近年はAIやIoTといった最新技術を駆使するアグリテックが注目されています。
今回は、いま日本が抱えている農業のさまざまな課題と、実際にアグリテックを上手く活用している導入事例を詳しくご紹介します。これからの新しい農業の形を、ぜひご覧ください。
激減する農業従者の数
日本での農業従事者の人口は減り続けています。実際、1960年には1454万人だったものが、今や136.3万人になっています。
農業をする人が大きく減った原因には、高齢化や農家をやっても儲からないから子供などに後を継がせたくないといった理由があげられています。
しかしアグリテック農業は、担い手が少なくなった現場で自動収穫ロボットや自動灌水装置、自動草刈り機など、今まで人に頼っていた作業を自動化し、省人化・省力化を図って農業生産を継続・拡大していく技術として期待されています。
日本の大きな課題:食料自給率の低さ
農林水産省によると令和元年の食料自給率は、国民1人1日当たりに供給している全品目の熱量の合計(供給熱量:2,426kcal)に締める国産の熱量(国産熱量:918kcal)から、割合でいうと「38%」です。
この数値が1965年には73%であったことを踏まえると、日本の食料自給率が長期的に低下してきていることがわかります。アメリカは121%、イギリスは70%の食料自給率と、海外の主要国と比べてみても日本の食料自給率は低い水準となっています。
食料自給率が低いということは、現在日本国内で問題となっている円安やエネルギーの高騰などが起こると、今までより割高な価格でモノを仕入れなければいけなくなり、結果として食品の値上げに繋がっていきます。
日本の品目別自給率は?
この食料自給率を詳しく見てみましょう。
農水省の発表している品目別自給率によれば、コメの自給率は主食用において100%です。
しかし、牛肉に関しては35%、豚肉は49%、鶏肉は64%です。また、外国産の飼料で育てられたものを除いていくと、それぞれの自給率は9%、6%、8%と大変低いものになってしまいます。
ほかにも、小麦14%、大麦9%、大豆7%、果実38%、食用の魚介類55%、砂糖類34%、油脂類13%が国内における品目別の自給率となります。
かつて、日本人の主食といえば米でしたが、戦後の復興の中で国が豊かになっていくにつれ、食生活が欧米風に変化し、米の消費が減る一方、肉やパンの需要が急激に増えていきました。
食料自給率の低さは、日本人の食べるものが変化し、海外から輸入される肉類や油脂類の消費量が増えたことも大きな要因になっています。
☞参考:農林水産省「その1:食料自給率って何?日本はどのくらい?」
食生活の半分以上を外国から輸入している日本は、地球温暖化や世界的な異常気象、原油価格の高騰、輸出国の輸出制限などが起きた際のリスクがどうしても高まります。
政府は、2025年度までに自給率を45%にするという目標を掲げていますが、農業の担い手が減少している中、国内の生産性をあげ自給率を上昇させるには、アグリテックの普及が必要になっていきます。
人手不足以外に:農業の化石燃料への依存度
もう一つの課題として、農業に使われるエネルギーをどうするかも考える必要があります。
国内の農業に使われるエネルギーのうち95%が化石燃料である重油、石油などを燃やして得られるもので、電気の部分はわずか5%です。そして電気も75%が火力発電なので、実際には農業に使うエネルギーの99%が化石燃料だと言えます。
例えば、トラクターや軽トラックを利用するのに電気で動かしているものはほとんどありません。ガソリンや灯油、石油などの化石燃料を利用してトラクターなどの機械を動かしたり、ビニールハウスで農業をしたりしているのが現状です。
アグリテックでは、AIやIoT技術を活用して農業をおこなうので、いままでの化石燃料を使う機械から電気を使う方向に進んでいくことになります。
それでは、具体的にアグリテック農業を取り入れている千葉市緑区大木戸町のソーラーシェアリングの事例をご紹介します。
アグリテックを導入した農業事例
「農業法人 株式会社つなぐファーム・千葉エコ・エネルギー株式会社/ソーラーシェアリング」
この地域における農業の特徴は、「ソーラーシェアリング」という設備の下で農業生産をおこなっている点になります。
そもそも「ソーラーシェアリング」とは、太陽光を農業と太陽光発電設備でシェアするという発想から始まりました。
農業従事者が減っている原因の一つには、農作物を作って売っても儲からない、大変さの割に得る収入が少ないので農業に参入しないという人も少なからずいます。
ソーラーシェアリングの設備では、耕作地の上に農業に支障がない範囲で、太陽光発電の設備を建てます。そして、太陽光発電で作った電気は施設内で使ったり、電力会社に売ったりすることができます。太陽光発電の電気の収益は、農業収益の下支えにもなります。
千葉エコ・エネルギーとつなぐファームでは、このソーラーシェアリングの下で少量多品目の農作物を栽培し、千葉エコ・エネルギーの農場ではナスやリーフレタス、サツマイモなどを作っています。また、つなぐファームの農場ではイチジクなどの果樹栽培に挑戦されています。
そして、このソーラーシェアリングの仕組みを取り入れることのメリットはもう1つあります。太陽光発電で作った電気を自動機械などで使用することで、CO2を排出する化石燃料の使用量を減らし、脱炭素化を目指すことができます。
そういった意味でソーラーシェアリングは、アグリテックと相性がいい設備になります。
さまざまな電動機械を駆使して農作業をする
自動草刈り機
大木戸ソーラーシェアリングでは、バッテリー式の自動草刈り機を使っています。自動草刈り機は、ラジコンでコントロールすることが可能です。実際に人が作業をする必要がないので、体力に自信がない人でも簡単に草刈りをすることができます。
荷物かご付きEV
そのほかにも、千葉エコ・エネルギーのメインの農場は約10,000㎡あり、移動や収穫物を運んだりするのは大変ですが、荷物かご付きのEVを使ったりもしています。
自動灌水装置
つなぐファームの運営するイチジクの農場では、その日の気象条件などを判断して水を撒いてくれる自動灌水装置も取り付け、作業が省人化されています。
AIによる日射量計測
現在は日射計を用いて日射量が計測されていますが、今後は光のほかに風や土に含まれる水分、作物の生育状態などのデータを集めて分析し、「このエリアでは今この作業をすべき」ということをAIが教えてくれるシステムへの発展も見通しているということです。
このように、大木戸ソーラーシェアリングでは、農場で使うエネルギーの脱炭素化とアグリテックの活用をうまく同時に進めておられます。
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いかがでしたでしょうか?
アグリテックを活かし、農業課題に取り組む大木戸のソーラーシェアリングの事例は、脱炭素を一歩進める設備としても注目されています。
アグリテックは、今の日本の農業課題の一つである農業従事者の減少に対する手だてとなり得ます。また、自動化ロボットなどは農業の電化を促し、カーボンフリー社会実現の一助にもなります。
持続可能なサステナブル社会を目指していくために、今後ますますアグリテックの推進は必要になっていくでしょう。
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