世界トイレデー×牛のウンチでバイオガス装置を作るプロジェクト
2013年、国連は毎年11月19日を「世界トイレの日」(World Toilet Day)と定めました。
日本ではトイレがないということはほとんどなく、下水道普及率も80.1%と比較的高い水準となっています。また、全世界でみると過去20年ほどの間に、少なくとも基本的なトイレを使える人は、2000年に56%だったものが、2017年時点には74%まで向上しました。
しかし、一方でまだまだトイレにまつわる問題があるのも事実です。そういった問題の改善を目指し、国連は「世界トイレの日」を設定ました。
さて今回は、そんな「トイレ」…ではなく、排泄物の方に少し目を向けてみましょう!
汚いなどネガティブなイメージがある排泄物ですが、これをポジティブに活用しているプロジェクトが世界でおこなわれています。
今回ご紹介するのは、マダガスカルで牛のウンチを利用した「バイオガスプラント」装置を作るプロジェクトです。ぜひご覧ください。
牛のウンチでバイオガスプラント?マダガスカルSDGsプロジェクト
本プロジェクトの発起人は、マダガスカルのアンチラベでJICA海外協力隊として活動している中田里穂さんです。
では、なぜマダガスカルなのか?自然豊かなイメージのある国で、バイオガスプラント設置プロジェクトを企画した理由とは何なのでしょうか。
マダガスカルという国の現状
マダガスカルってどんな国でしょう?
とにかく遠くにあって、アフリカのどこかにある国ということぐらいしか思い浮かばない方も多いのではないでしょうか?
マダガスカルは、アフリカ大陸の南東に位置する、世界で4番目に大きい島国(日本の1.6倍)です。島に生息する動植物の約8割が固有種であり、自然保護区も多数存在する自然豊かな国です。
ただ、2年前からJICAで活動されている中田さんによると、現在は大地の多くが削られ赤く茶色い大地が広がり、地肌がむき出しになっているところが多く、自然豊かなイメージとかけ離れた状態になっているそうです。
なぜ?マダガスカルの環境問題
ではなぜ、マダガスカルから自然が失われていっているのか?
実は、マダガスカルでは主に「焼畑農業」、「木材用伐採」および「調理用の薪・木炭生産」のため、国内の木々が大量に伐採・消費されています。
マダガスカルの森林は、この約60年間で44%が減少しています。2017年には、1年間で千葉県の面積に相当する51万ヘクタールの森林が失われ、現在はさらに7%ほどまで減少しているそうです。
(世界自然保護基金(WWF)、国際協力NGO AMDA社会開発機構のデータより)
国内の木々が大量伐採・消費された影響は「CO2排出量増加による気候変動」、「マダガスカル固有の生物多様性の喪失」、「土壌劣化や土壌流出による耕作地の減少」など、現在さまざまな形でマダガスカルや世界に影響を及ぼしています。
中でも、最も影響を受けているのは、国民の約8割を占める貧困層(※)の農民である方たちです。マダガスカルの貧困率は、2012年時点で全体で77.8%を記録しました。うち、農村部は82.2%、都市部は54.2%と、農村部の方がより比率が高い傾向にあります。
(2019年JICA国別分析より)
農民のほとんどが道路や電気、ガスなどのインフラが未整備状態の土地で暮らしており、調理の際はかまどを利用して煮炊きしています。つまり、“調理用の薪・木炭生産のための森林伐採”のほとんどは、農民の方々の生活用の薪・木炭なのです。
貧困層の農民の方々が生活するために必要なものが、結果的に彼らの国の土壌環境を悪化させてしまうという負のループに陥っているということになります。
そして、中田さんが住んでいるアンチラベの多くの農村家庭でも、炊飯時などに薪や木炭を多用しています。地元メディアでは、木炭から発生する一酸化炭素による、子どもの炊事時の死亡数(2013年で年間16,700人程)が多いことも報告されています。
また、多くの農家が畜産業も営んでいるため、牛や豚などの家畜を保有していることにより、その排泄物でかなり不衛生な住環境となっている状況も、多く見受けられるとのことです。
農家や子どもたちの命を救う!バイオガスプラント
今回、中田さんの発案で始まったプロジェクトでは、この森林伐採による環境破壊や一酸化炭素中毒による子どもの炊事時の死亡数を減らすことに貢献できます。
また、不衛生の原因にもなっていた家畜の排泄物をエネルギーとして利用することができる「バイオガスプラント」は、一石二鳥といわず一石三鳥、四鳥となるマダガスカルを救う手段になります。
バイオガスとは?
簡単に言うと、牛や豚などの糞尿から発生させたガスです。
具体的には、微生物の力で発酵させてできた、無臭・無害・無爆発の安全なメタンガスです。
これなら安全に調理用ガスや電気として使用することができ、また生成過程で出る廃液も良質な肥料として使うことができます。そのため、マダガスカルの貧困層が抱えている問題をまとめて解決できる画期的なものと言えるでしょう。
マダガスカルに今必要なバイオガスの普及促進
マダガスカルの現状や環境問題、それを打破できる「バイオガスプラント」プロジェクトについて、いかがでしたでしょうか?
最後に、これまでの要点を簡単にまとめておさらいしてみましょう。
<現在マダガスカルが抱えている問題の連鎖>
①木材の大量消費により伐採量が増え、森林破壊が深刻化している
②生活に必要な薪や木炭の価格が高く、貧困層の家計を圧迫している
③貧困層は家畜である牛や豚の糞尿により不衛生な住環境にある
④薪や木炭を使用するにあたり、その調達などに労力がかかる
⑤木炭から発生する一酸化炭素等による子どもの炊事時の死亡数が多い
こういった環境問題を改善するために、牛の排泄物から無臭・無害・無爆発の安全なメタンガスを発生させることができる「バイオガスプラント」の設置が必要です。
2022年7月から、2基のバイオガス装置の設置や住民への普及活動、人材育成などを実施するプロジェクトのクラウドファンディングを始め、現在すでに多くの方から支援があり、当初の目標金額70万円は達成することができました。
そこで、2022年9月には目標金額を100万円に増やし、3基目のバイオガスプラントを設置できるように、現在再度クラウドファンディングでの支援を2022年12月末まで募集しています。
遠いマダガスカルで、自然エネルギーのプラントを作る支援をしたい方は、ぜひ上記URLより支援へ参加してみてください!
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遠いアフリカにある「マダガスカル」。漠然と、自然豊かで手つかずなイメージがありましたが、それが失われつつあるなんてとても驚きました。
限りある自然環境という資源を、できることから少しずつ守っていきたいですね。
☞生産者まで知って、本当に“いいもの”を選ぼう
☞いま、カーボンニュートラルはどれくらい進んでる?