「リジェネラティブ」とは?サステナブルの先のキーワード

環境

リジェネラティブとは

近年、私たち人間が地球に長く暮らしていくための取り組みとして「サステナビリティ(持続可能性)」が1つのキーワードとなり、積極的に進められています。

しかし最近では、そのサステナビリティの一歩先を行く「リジェネラティブ」という新しいキーワードが世界的に注目されているのをご存じでしょうか?

リジェネラティブに取り組むことで、現在起きている環境の悪化を抑えながら、今より環境をより良く改善していくことができるといわれています。

今回は、そんなリジェネラティブの概要と取り組み事例をご紹介します。

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「リジェネラティブ」とは?

リジェネラティブ_概要

リジェネラティブとは、「再生させる」という意味を持つ言葉です。環境分野においては「環境再生」と訳されます。

そんなリジェネラティブは、世界的に取り組まれているサステナビリティの先を行く考え方として、現在重要視されています。また、サステナビリティと比べて環境をより良い状態に再生させるというニュアンスが強いため、サステナビリティの一歩先をいくキーワードと言われています。

そもそもサステナビリティというのは、環境面でいうと、地球を持続可能な場所にするために取り組む環境保護です。たとえば、地球温暖化対策はサステナビリティの1つです。そのため、サステナビリティでは“今以上に環境を悪化させないこと”が重視されます。

一方リジェネラティブは、サステナビリティと同じく“今以上に環境を悪化させないこと”を重視しながら、環境を再生していく取り組みを指します。つまり、現在起こっている環境問題を解決し、改善策を講じていくことで環境をより良くしていこうとすることが重視されます。

広い分野で発展!リジェネラティブ×農業・ファッションなど

リジェネラティブ_取り組み

リジェネラティブは、農業やファッションなどさまざまな分野で取り組みが始まっています。

中でも発展が進んでいるのが、農業分野です。農業分野での取り組みを「リジェネラティブ・農業(環境再生農業)」と呼びます。

気候変動問題を議論する世界的な会議である、気候変動枠組条約締約国会議(COP)の第26回(2021年10月31日から11月12日開催)では、2030年までに農業分野において「リジェネラティブ・農業が世界の農地面積・収穫量の50%以上となり、5億人が適正な収入を得られるようにすること」を目標に掲げられました。
☞参考:農林水産省「食から始めるサステナビリティ」

以下は、リジェネラティブ・農業の具体例です。

リジェネラティブ・農業の例 概要
不耕起栽培 土を耕さず農作物を栽培すること。
土壌に多くの有機物を含ませることができるため、土壌が多くの炭素を吸収できるようになる。
輪作 栽培する農作物の種類と場所を周期的に変えること。
土壌の栄養と微生物のバランスを保ち、炭素を貯蓄可能な土壌に育てる。
間作 育てている農作物の間に、他の農作物を栽培すること。
副産物の収穫を得られる。
被覆作物 地面を覆う性質を持つ植物を植えること。
土壌の有機物を増加させ、炭素を土壌に吸収させることができる。
コンポスト 農業廃棄物を、土壌のための肥料や殺虫剤として利用すること。
ゴミ削減と環境保護につながる。
オーガニック農法 有機肥料を使って栽培すること。
化学肥料による環境汚染を回避できる。

このようなリジェネラティブな取り組みが農業分野で発展している主な理由は、次の3つです。

理由①地球環境に負荷を与えるCO2の削減を見込める

リジェネラティブ・農業では、農地の土壌を健康に保ちつつ、土壌を再生する技術を使って土壌を修復したり、改善したりしながら農作物を作っていきます。
これらの技術を使って土壌が改善されると、その健康的な土壌では多くのCO2を吸収・隔離することができるようになります。つまり、大気中のCO2を減少させることができます。

リジェネラティブ・農業の取り組みが続けば、結果として質の良い農作物を生産し続けることが可能になります。

理由②農業における環境破壊をなくせる

リジェネラティブ・農業では、有機肥料が使われます。有機肥料というのは、油粕や魚粉といった植物性・動物性有機物が原料の肥料のことです。これらを使用することで、土壌の改善が見込めます。

農業で使われるもう1つの肥料、化学肥料では、短期間で土壌に栄養が行き渡るというメリットがあります。しかし、施肥し過ぎると植物が吸収しきれず、環境汚染につながるというデメリットもあります。
しかし、リジェネラティブ・農業ではこうした特性を持つ化学肥料は使わないため、結果として農業における環境破壊を防ぐことができます。

理由③農家の収入が増える

リジェネラティブ・農業に取り組むと土壌が活性化したり、他の農作物を栽培できたりするため、農家の方は農作物を増やすことができます。

一概には言えませんが、農作物の量が増えれば、その分収入を増やすことに繋がるかもしれません。

リジェネラティブ×漁業・水産業

国連公海条約案

漁業・水産業におけるリジェネラティブは、過剰漁獲の防止、生態系に配慮した養殖方法の採用、海洋保護区の設定と管理など、自然の回復力を最大限に活かすことに重点を置いています。

この中で重要な概念の一つが「ブルーカーボン」です。

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンは、海洋や沿岸域の生態系が炭素を吸収して貯蔵する能力を指し、特に海草、塩性湿地、マングローブ林などが主な貯蔵場所として知られています。

リジェネラティブな取組みにより、海洋生態系の健全性が保たれ、ブルーカーボンの貯蔵能力も向上します。例えば、海底を破壊するような底引き網漁を使用しないことで、海底の生態系を保護し、その炭素吸収能力を維持または向上させます。

また、マングローブ林の保護や再生プロジェクトは、ブルーカーボンの貯蔵量を増やすだけでなく、魚類の産卵場や若魚の育成場としての機能を強化し、漁業資源の持続可能な利用に寄与します。

このように、健全な海洋生態系は炭素貯蔵の機能を高めるだけでなく、生物多様性を守り、漁業資源の持続可能な供給源となります。

漁業・水産業におけるリジェネラティブは、気候変動の緩和と適応、生物多様性の保全、地域社会の生計支援が一体となったアプローチと言えます。

リジェネラティブ×建築

リジェネラティブ_デザイン

建築におけるリジェネラティブは、環境に対して単に中立であるのではなく、積極的に環境を改善し、生態系に貢献する設計と建築手法を指します。

ここでは、リジェネラティブな建築に重要なキーワードをご紹介します。

リジェネラティブデザイン

リジェネラティブデザインは、自然の生態系を模倣または連携をしながら、すべての生物により良い状態を目指す設計を指す言葉です。
人間の住み心地だけでなく、周囲の自然環境に配慮しながら、すべての建築物で自然由来の資源を使用することが理想とされています。

リジェネラティブ・アーバニズム

リジェネラティブ・アーバニズム(環境再生型都市)は、気候変動に伴い急増する自然災害の脅威によって生み出された都市計画(デザイン)を指す言葉です。

この考え方は、現状維持や現状復帰を基本とした従来の防衛的な災害対策ではなく、積極的に自然環境を再生させていくことを目指します。

具体的には地震や台風、津波といった自然災害が起きても、対応できるようなシステムを構築することが求められます。また、災害時だけでなく普段の日常においても市民が暮らしやすい環境を整えることを重要視しています。

ネットポジティブインパクト

自然や生態系の損失よりも、プラスの状態を目指す取組みを指します。生物多様性に極力影響を与えない開発をし、今ある生態系の破壊を避け、保全や回復に努めることで損失を上回ることを目指すものです。

例えば、新しい建物を建てる際には、土地が必要になりますが、その際に生態系に損失を与えてしまうことがあります。そういった場合に、建築後に生態系の保全活動を行い、生態系の損失よりもプラスの状態を目指します。

ネット・ゼロ・エネルギー

ネット・ゼロ・エネルギーは、エネルギー収支をゼロ以下にすることを指します。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー源を活用し、エネルギー効率の高い設計によって消費エネルギーを最小限に抑えることで、エネルギー収支が差し引きゼロとなる状態を目指します。

ネット・ゼロカーボン

ネット・ゼロカーボンは、大気中に排出される温室効果ガスと、森林の保護や植林などによるオフセット活動によって除去される大気中の温室効果ガスの量が差し引きゼロになることを指します。

環境保全のために温室効果ガスの排出量を抑えなければなりませんが、建築プロセスで、温室効果ガスを全く排出しないようにすることは難しいため、差し引きゼロにするという考え方が採用されています。

ゼロウェイスト

ゼロウェイストは、廃棄物をできるだけ生じさせないことを目指す取組みです。建築におけるゼロウェイストは、建材の選定から建設過程、建物の運用、解体に至るまでの全プロセスで、廃棄物の発生を最小限に抑えることを意味します。

たとえば、建設廃材を別のプロジェクトで再利用したり、建物の解体時に材料を分別回収し、再利用可能な資源として活用することが含まれます。

リジェネラティブな取り組み事例

リジェネラティブ_コットン農家

リジェネラティブは、さまざまな事業で取り組みがおこなわれています。
最後に、リジェネラティブに取り組んでいる企業の事例を紹介しましょう。

事例①【パタゴニア】リジェネラティブ・オーガニック農業の支援

アメリカのアウトドア企業「パタゴニア」は、製品に使うコットンをオーガニックコットンにするため、リジェネラティブ・オーガニック農業に取り組むコットン農家さんを支援しています。

リジェネラティブ・オーガニック農業とは、土壌の再生と同時に炭素を隔離する有機農業です。

パタゴニアは、2020年にリジェネラティブ・オーガニック農業で栽培したことを認証する「リジェネラティブ・オーガニック認証プログラム」を開始しました。

この認証プログラムの開始以来、2,200以上のコットン農家が認証に向けて農業に取り組み、2022年にはパタゴニアで初めてリジェネラティブ・オーガニック認証プログラムの製品が発表されました。

パタゴニアは、リジェネラティブ・オーガニック農業を促進させることで、土壌の修復だけでなく、コットン農家の暮らしの改善もサポートしています。

☞詳しくは:パタゴニア公式サイト「リジェネラティブ・オーガニック認証プログラム」

事例②【LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン】リジェネラティブ・アグロフォレストリーの推進

ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドを展開するフランスの企業「LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」は、アフリカでリジェネラティブ・アグロフォレストリーを推進しています。

リジェネラティブ・アグロフォレストリーとは、さまざまな樹木を育て森を管理しながら、そのあいだの土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりする農業のことです。

具体的には、イギリスの国王・チャールズ3世が設立した「サーキュラー・バイオエコノミー・アライアンス(生物の多様性を回復させながらサーキュラー・バイオエコノミーを推進する取り組み)」と提携し、アフリカのチャド湖での持続可能なコットン栽培を推進するといったものです。

現在、LVMHは500のコットン農家と協働して、コットン農場近くに樹木を植えられるように進めています。これにより多毛作への移行が可能となり、土壌が改善され炭素の貯蓄量を増やせるそうです。

また、この取り組みはLVMHにとっても、製品の原材料の調達強化につながるというメリットがあります。リジェネラティブと自社と経済活動の両方を促進できるものといえるでしょう。

☞詳しくは:LVMH公式サイト「COP15にて、LVMHは環境目標に沿った生物多様性を促進する野心的なイニシアチブを新たに発表」

事例③【ネスレ】リジェネラティブ農業への転換

スイスのコーヒーメーカー「ネスレ」では、コーヒー豆の農家さんとサプライヤーと協働して、コーヒー豆の栽培をリジェネラティブ農業へ転換する取り組みを進めています。

すでに50万人の農家、15万人のサプライヤーと協働しており、ネスレは農家からプレミアム価格でコーヒー豆を購入し、今後はその量も増やしていくとのことです。

ネスレによると、コーヒー豆農家の80%が貧困ライン以下で生活しているという現状があります。そのため、ネスレのこの取り組みは、環境の再生とコーヒー豆農家を救うことが可能となります。

☞詳しくは:ネスレ公式サイト「Nestlé launches Nescafé Plan 2030」

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いかがでしたでしょうか?

今回は、「リジェネラティブ」についてご紹介してきました。

リジェネラティブな取り組み自体は、主に事業者がおこなうものではありますが、私たちはその事業者が関わった製品を購入したり、利用したりすることで事業者を支援することができます。

せっかく買うなら、環境や生産者にやさしいものを。つくられた経緯を知ると、いつものお買い物も新しい楽しさが見つかるかもしれません!

普段何気なく購入している日用品や食品、衣服などに対して「これってどうやって作られているのだろう?」「どんな人々が関わっているのだろう?」と、少し考えるきっかけになれば嬉しいです。

この機会にぜひ、手に取る商品の見方を変えてみてください。

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