国連で初となる「公海」保護の条約案が採択に【地球上へ与える影響とは?】

環境

国連公海条約案

2023年6月19日、193の国連加盟国が参加した政府間会合で「国連公海条約案」が採択されました。

本条約は、どの国にも属さずだれもが自由・平等に使用できる海「公海」を保護するための初となる条約です。地球上の海洋の3分の2を占める公海の保全と持続可能性を維持するため、新たに75条が追加されました。

今回は、海洋環境やそこに暮らす生態系を守るために重要な役割を担う本条約の概要から、各国の反応などをご紹介します。ぜひご覧ください。

「国連公海条約案」に盛り込まれていること

国連公海条約案_ウミガメ

これまで公海では、すべての国が自由に行き来することや漁業、航行、調査などをおこなうことが可能でした。その一方で、公海の海洋環境や生態系保護のためのルールはありませんでした。
しかし、今回採択された「国連公海条約案」では次のようなことが盛り込まれました。

<条約案に盛り込まれた内容(抜粋)>
①公海上に海洋保護区域の設置
②海洋での商業活動に対し環境影響評価のルール化
③プラスチックごみを含む海洋廃棄物への対応
④魚類資源の持続可能な管理
⑤海洋遺伝資源等の公正な分配
(参考:国際連合広報センター「国境を越えて:なぜ新たな「公海」条約が世界にとって不可欠なのか」)

例えば、③の海洋プラスチックごみ問題については、その量が膨大なことが深刻な問題となっています。2021年には1,700万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流入したと報告されています。
また、その流入量は2040年までに毎年2~3倍に増えると見込まれています。国連の推計によると、このまま何も行動を起こさなかった場合は2050年までに海中のプラスチック量は魚類よりも多くなる可能性が示唆されました。

こうした問題を踏まえ、本条約案には汚染者負担の原則に基づいた条項や紛争メカニズムなども盛り込まれています。また、締約国には国家の管轄権を超えておこなういかなる活動に対しても、環境に与える潜在的な負荷を評価しなければいけなくなるなど、公海でのルールが定められていくことになります。

このように、本条約案で盛り込まれている条項には、これまで対応を進められなかった地球全体に大きく関わる問題にも適用できるようになります。

一方で「国連公海条約案」批准は遠い?

国連公海条約案_国連

今回、20年近い交渉期間を経て、本条約案が国連で採択されたことは大きな一歩と言えるでしょう。ただし、“採択”はあくまで“選び取られた”という段階です。

このあと、本条約案を正式に条約として発効させるためには、加盟国193カ国中60カ国の批准が必要となります。“批准”することは“条約に拘束されることへの国家としての同意”になります。この正式な批准を60カ国から得られて120日後、ようやく本条約は効力を発揮することができるのです。

しかし、2年後の2025年半ばごろの条約批准が目指されている中、主要国の足踏みは揃っていない状況です。

「国連公海条約案」に対する主要国の動向

中国はすでに条約推進の姿勢を公式に打ち出しており、EUも条約発効を促進する立場を示しています。しかし、ロシアは条約採択時に「今回の条約内容は、われわれのスタンスと距離がある」という旨の発言をしたと報じられています。

また、アメリカは2024年の大統領選挙で民主党・共和党のどちらが政権を担うのか、議会の公正がどう変わるのかによって批准は左右されそうです。

そして日本ですが、政府は検討する姿勢を示しており、各国の批准動向を確認した上で、日本としても批准の有無を判断し決めるようです。

(参考:一般社団法人環境金融研究機構「地球上の「公海」保全のための国際条約「国連公海条約案」を採択。2030年までに公海の30%を保護するほか、エコシステム尊重、汚染防止等を目指す。2025年半ばの条約発効へ(RIEF)」)

SDGsの目標にも大きく関わってくる「公海条約」

国連公海条約案_SDGs

国連のグテーレス事務総長は、今回の新たな協定に対し次のように述べられています。

“海洋が直面している脅威に対処し、2030アジェンダを含めた海洋関連の目標とターゲットを達成する上で極めて重要です”

海洋関連の目標とターゲットは、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」で設けられています。達成目標は全部で7つ設定されています。

例えば、14-1「2025年までに、海洋ごみや富栄養化※など、特に陸上の人間の活動によるものをふくめ、あらゆる海の汚染をふせぎ、大きく減らす」は、今回の公海における海洋プラスチックごみを含む海洋廃棄物への対応などが該当します。

地球の表面の70%以上を覆う海洋。その3分の2を占める公海。この条約が批准され発効することで与えられる影響はとても大きいものとなるでしょう。

2025年頃の批准が目指されていますが、引き続き各国の動向を含め展開を追っていきましょう!

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