IPCC第6次報告書を受けて「日本で脱炭素社会」は実現できるのか?【後編】
日本の温室効果ガスの排出量は2013年をピークにずっと減少傾向でしたが、2020年から21年にかけてはコロナから経済が回復したこともあり、やや増加しています。
こういう状況を踏まえながらも排出力をゼロにしていく必要があるので、中間的な目標として2030年までに46%の削減(2013年度比)掲げています。
より早く目標達成が求められる現状
しかし、IPCCの報告書では2035年までに世界全体で6割の削減が必要と記されています。これは2019年度比の削減目標ではありますが、それでも高い目標であることには変わりません。
2030年目標はその直線に乗っていますが、世界が求めている水準からすると日本のこの目標値はギャップが多いこともわかります。
一方で対策というのは、比較的コストのかからないところから進めていくのが妥当です。対策が遅れれば遅れるほど、同じ1トンを削減するにしても難しくなっていくでしょう。
前回ご紹介した「カーボンバジェット」の観点からみると、2050年までにネットゼロを達成するという目標は、できるだけ前倒しすることがより理想的となります。つまり、累積量をとにかく早く少なくするということが重要です。
GHG削減目標達成への3つのシナリオ
高い削減目標を達成するためのシナリオ(道筋)は、大きく分けて3つあります。1つずつ見ていきましょう。
1つ目「脱炭素技術進展シナリオ」
1つ目は 脱炭素技術進展シナリオです。
これは、以下のような新しい技術をさらに加速的に普及させることを指します。
・新燃料(水素、合成燃料、アンモニア)
・バイ燃料の利用拡大
・太陽光発電や洋上風力のさらなる大量普及
・貨物自動車の電動化の進展
・HP機器のさらなる普及
そして、どうしても取り除けなかったCO2をネガティブエミッション技術で取り除くなどを争点としています。
2つ目「革新技術シナリオ」
2つ目は、さきほどの1つ目に関連します。
2030年以降、加速度的に大規模展開されることが期待される革新的な脱炭素技術も進展させることで、2050年までのGHG排出量のネットゼロ目標を実現するシナリオになります。
3つ目「社会変容シナリオ」
最後のシナリオは「社会変容」ということで、技術的な革新をさらに進めるとともに我々のその社会行動といったものも含めて見直していくシナリオになります。
これは、無駄を省いていく社会変容を実現していくことになりますが、この社会変容はエネルギー効率の改善を含め、高効率の機械の導入やエネルギーの消費を抑える取り組みになります。
化石燃料を使うのではなく電気を使い、電気を作る際にその元になるエネルギーを低炭素化していくことが求められます。
2050年までに再エネの導入量65%?社会変容も含めた取り組みが必要
再生可能エネルギーの導入量を増やし、その他の革新的な技術を促進させ、社会変容していくことで2050年のネットゼロを達成できると考えています。
2050年のまでの将来の姿を「モデルAIM」と呼ばれる統合評価モデルを使って解析し、実際にエネルギーの需要と供給がきちんとマッチしているのか分析をおこなっています。
特に再生可能エネルギーの場合は変動性電源(太陽光発電や風力発電など時間や天候などに出力が左右されるもの)なので、1時間単位できちんと受給がバランスしているかを調べています。
我々の計算では、2050年の脱炭素社会は発電電力量のうち約4分の3が再生可能エネルギーで賄うことになります。
現状、1次エネルギーの国内供給量は10%に届くか届かないかの自給率ですが、脱炭素社会では6割を超える計算です。65%ほどの非常に高いエネルギー自給率に至ることは、エネルギー安全保障といった観点からも重要です。
実際、廃止される分を補填するような形で、ネガティブミッション技術も使いながら排出量をゼロにすることができるという計算結果を示しています。
この計算結果にはどれくらいのコストがかかるのかというと、だいたい2021年から2050年までの30年間に200兆円ほどの追加的な投資が必要になります。それを技術だけでネットゼロにしていくためには、さらに100兆円必要となり、合計約300兆円もの追加投資が必要です。
投資額が大幅に減らすことと、この脱炭層社会に向けて自分たちの生活を見直していくといったことも非常に重要です。
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いかがでしたか?
世界での脱炭素への取り組みや日本での取り組みを知ることで、自分自身がどのような行動をすればよいかについて、気づきがあれば嬉しいです。
さまざまな道筋や技術革新、社会的変容の中で、2050年の脱炭素実現までのシナリオはあります。それを具体的にどういう形で実現していくか?企業・政府・自治体等による社会変革に向けた取り組みが必要になってくると思います。
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