IPCC第6次報告書を受けて「日本で脱炭素社会」は実現できるのか?【前編】

環境

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先日開催されたJCLPセミナーにて、国立環境研究所 社会システム領域 領域長の松井 俊彦さまより、統合報告書に関し以下のようなお話しがありました。

・科学的根拠から見たポイントと削減目標
・具体的にどのような技術やシナリオで達成できるのか
・最新動向について など

IPCCの報告書からは、1.5度を実現する道筋はまだ残されているものの、特にここから2030年に向けて具体的な行動変容が必要であるとの見解を読み取ることができます。その道筋を実現するための方法はさまざまありますが、世界で、そして日本ではどのように実現するかについて、そのシナリオもご紹介していただきました。

前編では、本報告書の簡単な振り返りをかねて概要を説明しています。ぜひご覧ください。

☞IPCC・「第6次評価報告書統合報告書」とは?詳しくはコチラの記事もチェック!

IPCCとは?「第6次評価報告書統合報告書(AR6)」の要点解説!最新の地球温暖化状況を知ろう

産業革命前と比べて1.5℃に気温上昇と抑えることは可能か

地球はすでに1.1℃温暖化

IPCC報告書前編(出典:IPCC AR6 SYR SPM Figure 2.1c) d)

(出典:IPCC AR6 SYR SPM Figure 2.1c) d)

現在、すでに我々この地球は産業革命前と比べて地球の平均気温が1.1℃上昇しており、人為的な気候変動は科学的にも広範囲に悪影響と損失をもたらしていることがわかっています。

人によっては大したことないと思われるかもしれませんが、このペースは地球が経験してきた温暖化の中で一番気温が高く、その上昇のスピードも非常に早いということが問題です。

今後、ますます悪影響を及ぼす気温上昇。しかし、温室効果ガスの排出量は少ないにも関わらず、不釣り合いに温暖化の悪影響を受ける開発が遅れている地域や人々は、そうした危機に対する脆弱性が高くなっています。

残余カーボンバジェットも残りわずか

カーボンバジェットとは、温暖化による気温上昇を抑えるための、化石燃料由来のCO2排出量の上限(累積の排出量)を指します。カーボンバジェットを直訳すると「炭素収支」「炭素予算」という意味になります。

1.5度目標まで、あとどれくらい余裕があるのか?報告書の中ではメッセージとして次のように示されています。

IPCC報告書前編(出典:IPCC AR6 SYR Longer Report Figure 3.5a)

(出典:IPCC AR6 SYR Longer Report Figure 3.5a)

カーボンバジェット
IPCC AR6 WG1 SPM 表SPM.2より引用, 2020-30年の累積IPCC AR6 WG3
SPM FigureSPM.1 の値から作成、化石インフラからの排出IPCC AR6 WG3 SPM B.7.1より引用

科学的な知見として、気温の上昇とこれまでの歴史的なCO2排出量の累積には、比例関係があります。CO2の量が増えれば増えるほど、気温がそれに比例するかたちで上昇していることがわかっています。
その関係性に基づくと、あと500GtのCO2しか排出できないことになります。目標を2度にした場合でも900Gtしか排出できません。

数字だけ見ると余裕があるように見えますが、これまでの歴史を振り返ると、排出量は累積してどんどん増えていますし、仮に今の排出量と同じ量が続いてもあと10年足らずで突破してしまいます。

残されているこのカーボンバジェッドも、現在世界に存在するインフラから排出されるCO2の量で、1.5℃のバジェットはもうすでに超えてしまっています。計画も合わせるとさらに排出量は増えますので、このまま何もしなければ確実に1.5℃は超えてしまうことは一目瞭然です。

特に、この1.5度目標を達成していくためには、世界全体のCO2排出量を2050年までには“正味ゼロ”にする必要があります。

IPCC報告書前編(出典:IPCCAR6 SYRLonger Report Cross-Section Box.2, Figure 1)

(出典:IPCCAR6 SYRLonger Report Cross-Section Box.2, Figure 1)

このIPCC報告書では、今地球は危機的な状況に立たされているという科学的根拠が示されていますが、目標を到達できる経路はまだ残されています。

ただ、これから先10年間の我々の行動一つで、この排出量が大きく変わってきますので、その間にどういう行動するのか、これからの取り組みが重要です。

気候にレジリエントな開発・ネットゼロ排出の実現に向けて

気候にレジリエントな開発を促進する経路は、緩和策と適応策の統合に成功し、持続可能な開発を促進させる開発の道筋が必要です。

持続可能な未来を確保するための機会の窓は急速に狭まっていますが、まだ実現の経路は存在します。今、私たちが取る選択と行動は、何千年にもわたって影響を与えます。

IPCC報告書前編(出典:IPCC AR6 SYR SPM Figure SPM.7a)

(出典:IPCC AR6 SYR SPM Figure SPM.7a)

総合的(緩和・適応・SDGs)かつ包括的(衝平性、公平な移行)な取り組みは、リスクの低減、変革への支持を深めることにつながります。

食品ロスを減らしたり、家の断熱を上げたり、エネルギーを使う機器の効率を上げていくことで、まだまだ温室効果ガス削減の余地はあります。何も対策を取らない場合と比べて、約4割以上を削減できると試算されています。

そういうポテンシャルが単にあるということだけではなく、対策によっては経済的な便益も得られるものもあります。

削減とともに低いコストで取り組むことができてCO2削減効果も大きいもの。例えば、太陽光発電や風力発電は経済的にもメリットがあります。または、燃費の良い自動車に乗り換えたり、高断熱な家に住み替えたりすることもCO2削減効果が期待できます。

持続可能な開発目標「SDGs」と緩和・適応行動は相乗効果も多く、SDGsの実践が脱炭素社会の実現にもつながると言えます。

IPCC報告書前編_資料5

IPCC報告書前編(出典:IPCC AR6 SYR SPM C3.2-C3.8、SYR Longer Report4.5.1-4.5.6)

(出典:IPCC AR6 SYR SPM C3.2-C3.8、SYR Longer Report4.5.1-4.5.6)

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いかがでしたでしょうか?

ここまでで一度区切り、後編ではいよいよ「日本で脱炭素社会は実現できるのか?」について詳しく深掘りしていきます。

ぜひお楽しみに!

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