IPCCとは?「第6次評価報告書統合報告書(AR6)」の要点解説!最新の地球温暖化状況を知ろう

環境

IPCC_第6次評価報告書統合報告書

2023年3月20日、IPCCから「第6次評価報告書統合報告書」が発表されました。本報告書では、中でも以下の発表内容に注目が集まりました。

パリ協定の目標の1つである世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるという目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を2035年までに2019年比で60%削減することが必要である。

今、地球温暖化などの気候変動はどうなっているのか?そして、今回の報告内容を踏まえ、各国は今後どのように動かなければならないのか?

本報告書から読み取れることをわかりやすくまとめ、これからの世界の動きを簡単に解説します。

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」とは

IPCCとは、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)」の頭の文字を取った略称です。

この組織は、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された“政府間組織”で、2022年3月時点で195の国と地域が参加しています。

地球温暖化に関して世界中の科学者が協力するIPCCの役割は、各国政府の気候変動に関する政策に対し、科学的な基礎をあたえることにあります。そのため、IPCCの報告書は政府が承認してから発表されます。

つまり、各国政府はIPCCの報告内容を無視することはできないというわけですね。IPCC自体は中立的立ち位置ですが、その報告内容は各国の政策立案者に参照されているということです。

<参照例>
・第5次報告書→パリ協定の基礎にされた
・1.5℃特別報告書→グラスゴー同意の基礎にされた

経済産業省資源エネルギー庁「気候変動に関するIPCCの科学的な知見と国際交渉との関係」

(出典:経済産業省資源エネルギー庁「気候変動に関するIPCCの科学的な知見と国際交渉との関係」)

「第6次評価報告書統合報告書」とは

IPCCの報告書には、定期報告書と特別報告書と呼ばれるテーマを限ったものの2種類があります。

定期的な報告書は、下図の組織図の中でも次の3つの作業部会でそれぞれ作成されます。
・第1作業部会:温暖化の科学(自然科学的根拠)
・第2作業部会:温暖化の影響(影響、適応、脆弱性)
・第3作業部会:温暖化の対策(気候変動の緩和策)

経済産業省資源エネルギー庁「IPCC組織図」

(出典:経済産業省資源エネルギー庁「IPCC組織図」)

今回の統合報告書は、2021年~2022年にかけて発表された上記3つの作業部会の報告書と、以下3つの特別報告書をまとめたものになります。
・「1.5℃特別報告書」
・「土地関係特別報告書」
・「海洋・雪氷圏特別報告書」

☞参考:経済産業省資源エネルギー庁HP『気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?』

IPCC「第6次統合報告書」要点と4つのポイント

今回の統合報告書には、実にさまざまな内容が明記されているのですが、その中でも特に重要な要点は以下の4つと言えるでしょう。

1)第5次報告書からの科学的知見の更新
2)気候変動の現実と影響
3)今後の長期・短期的見通しの更新
4)1.5℃に抑えるために必要な行動の追加

それでは、それぞれの内容を簡単に解説していきます。

☞参考:環境省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル』
☞参考:国際連合広報センター『気候変動は拡大し、加速し、深刻化している』
☞参考:国際連合広報センター『緊急の気候行動により、すべての人々が住み続けられる未来を』

1)第5次報告書からの科学的知見の更新

2014年に発表された第5次評価報告書からどの部分が変わったのか?大きくは次の3点です。

①気候変動による損失・損害
→すでに深刻な影響を及ぼしているということ
②気候変動に対する人間の影響
→「疑う余地がない」(より確信度の高い言葉で断言された)
③各国の温室効果ガス排出量削減目標と実施政策
→ギャップがあり、達成には不十分

特に、②の気候変動に対する人間の影響については、人間活動で環境が急激に変化していることが科学的知見の蓄積によって、より高い精度で明確化されたということです。

2)気候変動の現実と影響

では、具体的にどの程度環境に影響が出ているのか?報告書では以下2点が明記されています。

①2011~2020年の地球表面温度は1.1℃上昇している(産業革命前と比較)
②北極圏の永久凍土層や氷河、氷床の融解は不可逆的変化に近づいている

Tips:「不可逆」とは
再びもとの状態に戻れないこと。「可逆」の対義語。
(出典:デジタル大辞泉(小学館))

IPCC_アルゼンチン_ペリトモレノ氷河

また、この変化は災害・食糧・健康・経済活動・生態系などのさまざまな分野に広く影響を及ぼすとされています。しかし一方で、世界人口のほぼ半数が気候変動に対し、非常に脆弱な地域に居住している状況にあります。

3)今後の長期・短期的見通しの更新

今後、新たな対策を講じずにこのまま気候変動が進んでしまうと大幅な気温の上昇が見込まれています。それぞれ長期的・短期的見通しから詳しく見てみましょう。

<長期的見通し>
・このままでは、21世紀末に約3.2℃の気温上昇
・各国の現状の政策では、NDCで提出している温室効果ガス排出量削減目標に不十分

Tips:「NDC」とは
「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution)」の略。
パリ協定批准国が5年毎に国連に提出・更新する義務がある温室効果ガスの排出削減目標のこと。日本の直近の提出は、2021年10月22日。
(参考:外務省HP『日本の排出削減目標』

<短期的見通し(2040年頃まで)>
2030年代前半に1.5℃に達する可能性が最も高くなった
・蓄積したCO2による気温上昇は避けられない

ただし、温室効果ガスの排出量を速やかに減らすことができれば、一時的な1.5℃越えの期間と程度を小さくすることは可能とされています。つまりは、各国が現在実施している政策では足らないので早急に見直しましょう、ということですね。

4)1.5℃に抑えるために必要な行動の追加

上記の通り、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるためには、より大幅かつ速やかなCO2/温室効果ガス(GHG)の排出量削減が必要となります。その具体的な数字目標は以下の通りです。

<世界的な排出量削減目標(2019年比)>
・2030年:CO2 48%/GHG 43%の削減
New!
・2035年:CO2 65%/GHG 60%の削減
・2040年:CO2 80%/GHG 69%の削減
・2050年:CO2 100%/GHG 84%の削減(カーボンニュートラル達成)

加えて、先進国は上記の世界平均以上の削減を求められます。2035年の目標の提出は、2024年末に開催予定のCOP29までとなるので、各国早急な政策の見直しが必要となるでしょう。

その他、2020年代は自然エネルギーの導入などといった気候変動への速やかな緩和策に現状の3~6倍の資金が必要とされたり、「2)」で挙げた脆弱な地域などには特に資金投入が必要であると明記されました。

IPCC「第6次統合報告書」と今後の政策動向

IPCC_世界_目標見直し

いかがでしたでしょうか?

今回の統合報告書では、全体的に1.5℃目標を達成することの意義や重要性を改めて強調した内容となっていました。そして、世界各国に対し現状よりも大幅かつ速やかな排出量削減を強く訴えるものとなりました。

日本では現在、以下のような目標が立てられています。
・2030年度:温室効果ガスを2013年度比で46%削減(さらに50%に挑戦)
・2050年カーボンニュートラル実現

これに対し、2021年時点で日本の排出量は2013年比ですでに約20%削減しているそうです。とはいえ、日本も現状よりさらに高い目標設定と政策の実施が必要となるでしょう。

事実、2022年末に開催されたCOP27でも、社会基盤が脆弱な国々は地球温暖化の深刻な影響を受けていることが注目され、そうした「損失と損害」に特化した基金の設置が決定されました。

この10年の選択と行動は、現在から数千年にわたり影響する。

近年は世界各地で洪水や台風、熱波、干ばつなどの自然災害もより大規模なものになってきており、個人でも地球温暖化などの気候変動の影響を感じる機会は増えているのではないでしょうか。

今一度、各国政府、そして私たち自身も、地球の現状とこれから先の未来にきちんと目を向けることが求められています。

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