再エネ100%で運行する東急電鉄 “街づくりの中から誕生した鉄道”ならではのサステナビリティを目指す
2022年4月、東急線全路線が運行に使用する電力を再生可能エネルギー由来の実質CO2排出ゼロの電力に100%置き換えたことは、ニュースなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか。
鉄軌道全路線を再生可能エネルギー由来の電力100%で運行することは、日本で初となる取り組みです。
サステナブルに本気で取り組む東急株式会社(以下「東急」)、そして東急電鉄株式会社(以下「東急電鉄」)。“まちづくりの中から誕生した鉄道”である東急電鉄ならではの、人と環境が共生する未来へ向けての取り組みや、サステナビリティへの考えとは?
今回は、東急電鉄株式会社 経営戦略部 CSR環境経営推進課 課長 根本さん(上写真左)、並びに課長補佐 坂本さん(上写真右)にお話をお伺いいたしました。ぜひご覧ください。
サステナブルに積極的に挑む東急
公共交通や都市開発を通して環境と調和する持続可能な街づくりを目指す東急・連結子会社は、2018年より“サステナブル”を重要テーマとして捉え、取り組みを進めてきました。
また、翌2019年10月に日本の鉄軌道事業を含む企業グループで初めてRE100に加盟したことは、東急・連結子会社が環境経営を推進していくことを明瞭にしました。
その後、2022年3月28日に発表された中長期計画「環境ビジョン2030」では、“なにげない日々が、未来をうごかす”をコンセプトに、脱炭素・循環型社会への目標を掲げています。
中でも、東急連結の大きな目標の1つであるCO2排出量削減と再エネ比率の向上に関しては、以下のように設定されていました。
2030年
・CO2排出量:46.2%削減(2019年度比)
・再エネ比率:50%
2050年
・CO2排出量:実質ゼロ
・再エネ比率:100%(RE100達成)
脱炭素社会への挑戦:東急電鉄が担うCO2排出量削減・再エネ目標
「東急が取りまとめた資料によると、2030年、2050年のCO2排出量削減目標に対して、東急電鉄の鉄軌道運行にかかるCO2排出量はそのうちの約1/3を占めていました。そのため、東急電鉄がCO2排出量の削減並びに再エネ比率100%に取り組むことには大きな意義がある」と、根本さんはお話されます。
東急線で使用される電力の再エネ化は、実は2019年から始まっていました。最初は軌道線である世田谷線から始まり、「環境ビジョン2030」が発表された後の2022年4月1日、全路線での運行にかかる使用電力を再エネ100%電力に置き換えたのです。
「太陽光発電設備といった再エネ発電設備を設置し、自家消費することが最も再エネに貢献すると考えておりましたが、全路線で必要な電力は約3.5億kWhであることから、あまりにも膨大な発電設備を新設しなければならないという大きな障壁がありました」
坂本さん曰く、既に元住吉駅の駅舎屋根などに太陽光発電設備を設置していたそうですが、賄うことができたのは駅での使用電力量の10%ほどの電力でした。
理想は太陽光発電による自家消費でしたが、全ての駅舎屋根に設置するには耐荷重など安全面等での課題と、仮に東急電鉄の敷地内で全て太陽光発電設備を設置したとしても賄い切れない必要電力量を鑑みた結果、非化石証書による再エネ調達を選択されました。
「ただ、この非化石証書による再エネ調達はあくまでスタートラインであり、自家消費型太陽光発電を完全に諦めたわけではありません。安全性や費用対効果をみながら、引き続き検討して再エネ比率を上げていきたいと思っています」と力強いお言葉をいただきました。
鉄軌道全路線再エネ100%の反響
根本さんがおっしゃった通り、東急電鉄が実現した全路線での運行にかかる使用電力再エネ100%は、東急・連結子会社で取り組む「環境ビジョン2030」の目玉となりました。
実際に、AP通信による配信などもあり、再エネ先進地域と謳われるヨーロッパでも取り上げられるほど、世界的にも大きなニュースになりました。
国内でも報道各社媒体で多く取り上げられるとともに、東急電鉄としても車内ビジョン・ポスター、駅ポスター・サイネージなどを活用した広告を展開し、他の交通機関に比してCO2の排出量が少ない鉄道(自家用車の7分の1)の中にあって東急線はさらに環境に優しい鉄道になったことを積極的にPRしました。
最終的な狙いについて「東急線の利用者の方々には、意識なく再エネに参加いただきたいと思っています。“なにげない日々が、未来をうごかす”というコンセプトの通り、普段通りの生活が結果として環境にいいものとなるように取り組んでいます」と坂本さんは熱く語っていました。
東急電鉄は、田園都市線をはじめ、街とそこに住まうヒトと共につくり上げられてきた鉄道だからこそ、環境にいい行動を特別な負担感なく選択できる日常の実現を目指しています。
循環型社会への挑戦:訪れたくなる駅
脱炭素社会、そして循環型社会を目指す東急・連結子会社では、次のような取り組みもおこなわれています。
南町田グランベリーパーク(駅)
国土交通省によると、「グリーンインフラ」とは、自然環境が有する機能を社会におけるさまざまな課題解決に活用しようとする考え方を指します。
南町田グランベリーパークでは、グリーンインフラを生かしたランドスケープデザインなどが環境配慮の取り組みとして、世界的な環境認証評価「LEED」の評価を受けました。駅舎建築物としてのゴールド認証の取得並びに、駅舎を含む開発エリアのゴールド認証の取得は国内初の快挙です。
その他、南町田グランベリーパーク駅では、ユニリーバ製品の使用済みプラスチック容器回収の取り組みもおこなわれています。リサイクルに参加すると「UMILE(ユーマイル)」というポイントをためることができます。
また、実はこの回収ボックスは、廃棄予定だった東急電鉄の制服を再利用してつくられています。ぜひ見に行ってみてください。
戸越銀座駅、旗の台駅、長原駅
実は木は、CO2のおおまかな吸収量が決まっています。そのため、一定の成長を遂げた木を伐採し、新たな苗木を植え再び育てるといった持続的な森林整備と森林振興は、CO2削減や循環型社会につながります。
東京都の多摩地域では上記のような取り組みがおこなわれており、この地域で生育した木材を「多摩産材」と呼びます。東急電鉄では、地産地消の観点からこうした木材を進んで活用しています。
「木になるリニューアル」と呼ばれるこのプロジェクトは、現在戸越銀座駅、旗の台駅、長原駅でおこなわれ、竣工しています。自然のぬくもり溢れる駅を、ぜひ一度ご覧になってみてください。
2030年SDGs目標に向けて
今回は再エネに焦点を当てましたが、東急電鉄では他にもさまざまな新しい技術で省エネやエネルギーマネジメントに取り組んでいます。
「例えば、回生電力です。列車のブレーキをかけたときに電力が発生するのですが、その電力を他の列車の加速時に利用しています。さらに、利用しきれない余剰電力を活用できないかについて検討しています」
再エネ、省エネ、回生電力の活用などに取り組むことが結果的にSDGs目標達成にもつながっていきます。また、それ以外にも、これまで廃棄製品として消費されていた製品を資源として再度利用するサーキュラーエコノミーへも意欲的に取り組んでいきたいと、坂本さまはお話くださいました。
あとがき
普段なにげなく利用している鉄道。
その裏では、いかに環境と調和を取りながら、お客さまにとってより便利でよりよいサービスとは何かを真剣に考え、取り組んでいる企業の姿がありました。
毎日の生活で当たり前のように環境にいい暮らしが実現する日も、そう遠くはないかもしれません。
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