【脱炭素社会とは?】ヒントとなる「地域循環共生圏」の仕組み
(出典:環境省『長期低炭素ビジョン』47ページ図16 長期大幅削減の絵姿)
皆さまこんにちは!最近は不安定な天気が続いていますね。
さて、これまで脱炭素の意味や脱炭素化が求められる理由などについては解説してきましたが、では実際、どうなったら“脱炭素社会なのか?”は少しイメージが湧きづらかったと思います。
そこで、今回は“脱炭素社会”とはどんな状態になっていることを意味するのかを深掘りします。
脱炭素化を目指す社会の取組みは、果たしてどのようになっているのでしょう?
「パリ協定」で目標とされた世界の平均気温上昇を超えると発生する問題とは。
長期低炭素ビジョンで目標とされている到達点は何か。
そして実際の地域社会での脱炭素化の取組みについて、見ていきましょう。
【脱炭素社会の実現に向けて】パリ協定:2℃目標と1.5℃目標とは?
「脱炭素」と大きく関わってくるのが、「パリ協定」です。
まずは、「パリ協定」とはいったいどのようなものなのか、おさらいしてみましょう。
パリ協定は、国際的な温暖化対策として、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立した協定です。
合意した内容は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することとされました。
これは、2014年度のICPP第5次報告書で、1880年~2012年までで世界の地上気温はすでに0.85℃上昇しており、このまま平均気温が1.5℃、2℃と上がっていくと以下のような気候変動が起こると懸念された背景があるためです。
<予測される自然環境への影響>
●北極海の海氷破壊による海面水位上昇
1.5℃:100年に1回程度、夏に海氷が消失し、2100年までの海面水位上昇は0.26~0.77mと予測
2℃:少なくとも10年に1回、夏に海氷が消失し、数百~数千年にわたり海面水位が数m上昇
●生態系の破壊
1.5℃:サンゴ礁の70~90%が減少。昆虫の6%、植物の8%、脊椎動物の4%が生息域の半分以上を失う
2℃:サンゴ礁の99%が消失(海の生態系のリスク大)。昆虫の18%、植物の16%、脊椎動物の8%が生息域の半分以上を失う
●食料の減少
1.5℃:サハラ以南、東南アジア、ラテンアメリカで、穀物の減収と質の低下が起こる
2℃:サヘル、アフリカ南部、地中海、中央ヨーロッパ、アマゾンで、食料の入手不可能な状況が発生する
上図のように、このままのペースで地球温暖化が進めば、2030~2050年までには地球の平均気温はプラス1.5℃に達すると予測されています。
それを回避するためには、まずは主要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の世界の排出量を2030年に10年比で45%減らし、2050年には、森林などの吸収分や技術で回収する分などを差し引いて「実質ゼロ」にする必要があるのです。
そのために、脱炭素社会への動きが進められています。
【脱炭素社会の実現に向けて】長期低炭素ビジョンのポイント解説
では、脱炭素社会を実現するためにはどのようにすれば良いのでしょうか?
日本では、パリ協定を踏まえて2050年までに温室効果ガスの80%削減の目標を掲げて、2017年に環境省から「長期低炭素ビジョン」を発表されました。
(※COP26、岸田総理はさらに高い目標「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。)
そこでは、達成するための対策の柱を①省エネ、②エネルギーの低炭素化、③利用エネルギーの転換(電化、水素等)の3つとしています。
これが実現された具体的な姿、すなわち目指す到達点は次の4つです。
①国民の生活(建物・暮らし/移動)で炭素排出をほぼゼロにする
②産業・ビジネスで脱炭素投資、低炭素型製品・サービスによる国内外の市場を獲得する
③エネルギー需要で低炭素電源を9割以上にする
④地域・都市をコンパクト化し、自立分散型エネルギー社会をつくる
これらを実現するためには、気候変動対策によって、経済成長を促すこと。
また、地方の活性化を図ること。
そして少子高齢社会対策をすることなど、多様な課題の「同時解決」も必要になります。
これらの目標を達成するひとつの仕組みとして「地域循環共生圏」があります。
地域循環共生圏とは、地域が持っている資源を最大限に活用しながら、それらを地域間で補完し合うことで新たな成長につなげていこうというものです。
そのポイントとなるのは次の6つです。
<地域循環共生圏のポイント>
①再生可能エネルギーの活用
太陽光、風力、水力など再生可能エネルギーは、地域の気候や風土など、その土地の条件が大きく影響するため、都市部よりも地方での可能性が期待されています。
②循環資源の活用
食品廃棄物、下水汚泥、プラスチックなど、生産により出される廃棄物を、処理・循環させることで、エネルギーとして活用していきます。
③自然資源の活用
自然の恵みを地域資源として捕らえ、これらを最大限に活用し、新たな産業創出や地域ブランド化などを各地で広げていきます。
④地域のつながり
地方同士が連携し、自然資源や人材資源などを有効活用し地域活性化につなげます。また都市も地方との連携も意識し、共に社会的、経済的な持続可能性を探ります。
⑤ライフスタイルの転換
地方の自然の恵みによって、われわれの生活が支えられているということを意識して、一人ひとりがライフスタイルを転換していきます。
⑥ESG金融への取組み
「ESG金融」は環境、社会、企業統治を考慮した投融資として注目されています。持続可能な社会のために、投資家、金融機関、企業、地方自治体、国の連携を強めます。
脱炭素化を目指す上で、複数の課題を解決すると注目されている“地域循環共生圏”というあり方。
それでは、実際に地方自治体などで行われている活動の事例を見てみましょう。
【脱炭素社会の実現図】複数課題を同時解決!“地域循環共生圏”例
地域循環共生圏という仕組みは、その地域それぞれの特性に寄り添いながらさまざまな形で実現されています。今回は、その一例を簡単にご紹介します。
「再生エネ自給率100%を目指すまち」
岡山県真庭市は市域の8割を占める森林資源を生かし、古くから農林業が栄えた地域でした。
2015年からはその森林資源を活用し真庭バイオマス発電所を稼働。
また新産業として、CLTなどの新しい木造建築材の製造。
生ごみを利用した液肥の農業利用などを行い、「SDGs未来都市」に選定。
再生可能エネルギー自給率100%を目指しています。
☞詳しくはコチラ!環境省ローカルSDGs『海と里の資源をつなぐ』
「脱炭素型地域交通を実現」
株式会社REXEVは湘南電力株式会社・小田原市と連携し、地域のエネルギーマネジメント、災害対応力の向上を目指しました。
その方法は、再生可能エネルギー等を活用した地域新電力と、蓄電池を活用したEV(電気自動車)カーシェアリング“eemo(イーモ)”によって、エネルギーや資金が地域のなかで循環する仕組みの実現。
エネルギーを軸にして地域資源の活用と地域課題の解決をつなげています。
また、“持続可能な街づくり”を目標にさらなる発展を目指しています。
☞詳しくはコチラ!環境省ローカルSDGs『地域新電力とeモビリティーサービスで脱炭素地域交通を提供』
「防災にも強いエコタウン」
宮城県東松島市では、東日本大震災で被害を受け、その後半年間も電力不足に苦しんだ経験を踏まえて、「東松島市スマート防災エコタウン」を設立。
太陽光を中心とした発電設備により、公営住宅、病院、公共施設などに電力供給おこなう、日本初の小規模エネルギーネットワークを用いたエコタウンを作っています。
☞詳しくはコチラ!環境省エコジンVOLUME.602017年8・9月号『東松島市スマート防災エコタウン』
いかがでしたか?
ほんの一部ではありますが、地域社会における、脱炭素をはじめとする課題解決の取り組みについて紹介させていただきました。
このような動きは、少しずつ全国に広がってきています。
まずは社会の取り組みを知ることからはじめ、自分ができる脱炭素に向けた行動を一つずつ増やしていきたいですね。