【地域で取り組むスローフード】もったいない野菜を楽しく美味しくレスキュー

インタビュー

海のじどうかん併設、地域の皆が集う「小屋」にて。(左から:ブロ雅農園代表の鈴木雅智さん、小屋で野菜販売の管理をする安藤麻紀子さん、そっか共同代表の小野寺愛さん)

海のじどうかん併設、地域の皆が集う「小屋」にて。(左から:ブロ雅農園代表の鈴木雅智さん、小屋で野菜販売の管理をする安藤麻紀子さん、そっか共同代表の小野寺愛さん)

今回は、日本スローフード協会のスローフード三浦半島代表をしている小野寺愛さんに、スローフードの考え方や地域で実践されている「もったいない野菜」という取り組みを中心に、さまざまなお話を伺いました。

「食べる、つくる、遊ぶ」というコンセプトを大事に、一般社団法人「そっか」が設立した逗子市の保育施設「うみのこ」では、子どもも大人も楽しみながら地域のコミュニティ全体で子育てをしています。今回、私たちが訪問させていただいた園併設の小屋にも、子どもたちの元気な声が届いてきていました。

「愛ちゃん、野菜、海に行ったあとに取りに来るね」
「愛ちゃん、この前助かった!ありがとう!」

取材させていただいたわずか1時間の間に、「うみのこ」にお子さんを預けているお母さんやお父さんからたくさんの声をかけられ、にこにこと答えている愛さん。
その姿に、地域の繋がりというものが軽薄になりがちな今の時代に反して、みんなが大きな家族のような、地域コミュニティの絆の強さを感じました。

<世界の食問題に子どもたちと楽しく取り組む>
スローフードと持続可能な暮らし

「子どもと楽しく地域の食を体験する」その発想に至ったきっかけ

そんな愛さん自身についてもお話を伺うと、現在3人の子どもを育てながら、スローフード三浦半島の代表や「そっか」の運営をされており、そのパワフルさに驚きました。

現在行っている「もったいない野菜」のような取り組みや、「そっか」で子どもたちと野菜や食材を育て、調理して、食べるところまでを一緒に実践する活動などといった、“食育”に目を向けるようになったきっかけについて伺いました。

「16年ほど、年に3回地球一周の船旅をコーディネートする国際NGOのピースボートでスタッフとして働いていました。子どもが2人の時までは、子どもたちも連れてピースボートで旅をしていたんですよ。
母になるまでは、ピースボートで立ち寄る場所は貧困や紛争、環境問題など、課題を抱えている現場に行くものを企画することが多かったです。

でも、子どもが生まれてからは自然と、課題そのものよりも、その解決策を生きる人たちに会いに行きたくなったんです。たとえば、循環型の農業をやっている農家さんだったり、子どもの自治で運営される教育の現場だったりと、ポジティブな暮らしを子どもたちと一緒に体験したいと思うようになりました。

親子で旅してみて気づいたのは、グローバルな課題の解決策は、実はローカルにあということ。
スローフード運動もそうですよね。グローバルに広がるファストフード文化に対して行ったのは、風土ごとに大切に繋いできた固有の食材や、伝統料理を守ること。
3人目が生まれたタイミングで、私も、自分の子どもたちが育つ地元の町で何かを始めたいと思ったんです」

スローフードの考え方と「子どもたちと持続可能な暮らしをつくる」

スローフード発祥の地はイタリアです。ローマのスペイン広場に有名なファストフードショップができることに対して、地元の人々が抗議しました。
そのやりかたは、従来の反対運動とは違う、ユーモアと美味しさに溢れたもので、当時世界中でニュースになりました。なんと、イタリア中から数百人がスペイン広場に集まって、ローカル自慢のペンネや郷土料理などを振る舞ったんだそうです。

ファストで画一的な食べ物を海外から受け入れなくとも、自分たちには風土に根付いた固有の農産物や食文化があるじゃないかと。スローフードはそんな風にして、草の根活動を始めたことから世界に広まった社会運動でした」

スローフードでは、「おいしく健康的で(GOOD)、環境に負荷を与えず(CLEAN)、生産者が正当に評価される(FAIR) 食文化を目指す」ことをスローガンとしています。

小野寺さんたちが運営する「そっか」の活動にも、地域にある多様性を持続していくために、大人と子どもたちが足下の自然を楽しみながら「とって、つくって、食べる」文化が根付いていました。

 

「イタリア発祥の運動をそのまま真似したいわけじゃないんです。日本になら、たとえば伝統食材として味噌も醤油もある。
でも、和食に欠かせない味噌と醤油を、どの家庭でも作っていたのは2世代前くらいまでの話になってしまっていて。私だって、醤油の作り方なんて知らなかった。これを繋いでいこうという活動を一人ではじめるのは大変だけど、皆でやったら楽しいじゃないですか。

そっか、それなら子どもと一緒に皆で作ってみよう!ということになり、うみのこ保育園では、味噌も醤油も手作りしています。

すでに完成している既製品をただ食べるのと、自分たちで一からつくり、その過程を知ってから食べるのとでは、感じ方が違います。子どもたちはすごくて、買ってきた醤油と自分たちが作ったもの、味の違いがわかるんです。もちろん、作って食べるものを “おいしい” と言うようになりましたよ」

春に仕込んだ醤油を天地返ししたあとのもろみを味見する子どもたち。うみのこ保育園の子どもだけでなく、小学生放課後の活動「とびうおクラブ」の子どもたちの姿もあり、皆で美味しさを喜び合う様子が印象的でした。

春に仕込んだ醤油を天地返ししたあとのもろみを味見する子どもたち。うみのこ保育園の子どもだけでなく、小学生放課後の活動「とびうおクラブ」の子どもたちの姿もあり、皆で美味しさを喜び合う様子が印象的でした。

「また、自分たちだけでは作れないものは、より自然に近い場所で仕事をしている地域の皆さんに教わっています。たとえば、小坪漁協の漁師さんに教えてもらいながらワカメを養殖したり、逗子で養蜂を営む方と一緒に蜂蜜を搾らせてもらったり。

ミツバチは、半径2kmから蜜を集めるけれど、”夏はこの町に花が足りなくて、集める蜜が少なくなるんだ” と養蜂家さんに教えてもらいました。すると、子どもたち自身が “じゃあ自分たちで近所に花を植えれば、ミツバチが蜜をもっとたくさん集められるね” と考え、みんなで花の種を撒いたりもしました。

足下の自然と暮らしの中で、子どもと一緒に作ったり食べたりすることで、子どもたちの感受性や発想から本当にたくさんのことを教えてもらっています」

余った種は、地域で循環!「小屋」は野菜販売だけでなく、種の交換場所にもなっています。

余った種は、地域で循環!「小屋」は野菜販売だけでなく、種の交換場所にもなっています。

愛さんからは、遊ぶことが食べること、生きることに直結している保育園の様子だけでなく、小学生放課後の活動「黒門とびうおクラブ」などについても伺いました。どの活動も、大人と子どもが一緒になって楽しむ様子が印象的でした。

何を教えるよりも、まずは大人が楽しみながら取り組む。そんな姿を見て子どもたちは自然と興味を持ってくれるのだと、愛さん自身が実に楽しそうにお話する中から伝わってきました。

<地域で取り組むスローフード>
地域の農家さんと持続可能な暮らしをつくる

いろいろな取り組みについてお伺いしている最中、近所の農家、ブロ雅農園代表の鈴木雅智さんが自分の畑でとれた野菜をトラックいっぱいに積んでやってきました。
スローフード三浦半島のメンバーである地域の飲食店と「そっか」の父母で、野菜を共同購入しているのです。

この日は、実に8種類の野菜が届きました。印象的だったのは「摘果メロン」という間引かれた小さな未成熟メロン。これは、普段ならもともと捨ててしまう野菜だそうで、「タダで配ってください」とケースいっぱいの摘果メロンを見せて下さいました。

ブロ雅農園さんの野菜を「もったいない野菜」として販売するに至ったきっかけ

ブロ雅農園さんはできるかぎり無農薬と定農薬で、少量多品目を育てる農業をしており、季節ごとに旬のさまざまな野菜を消費者へ届けたいと考えています。
そんなブロ雅さんに、小野寺さんたちが野菜を販売する上で、特に時間がかかり大変なことを聞いてみると、「野菜を“A級品”や“B級品”に選別し、注文どおりに個別包装すること」という答えが返ってきました。

こうしたブロ雅農園さんの状況と理念を聞く中で、「毎月、そのとき畑にあるものを、無選別・無包装のまま共同購入する」というアイディアが浮かび上がってきたそうです。

「今日は〜を作ろう、と考えて、食べたい料理からスーパーなどに置いてある食材を選んでいたら、必ず余りもの=フードロスを出してしまう。そうではなく、そのとき畑にある野菜ファーストで考えてみたらどうだろうと。
“A級品”“B級品”混ぜこぜでも、料理にしたらなんでも美味しいじゃないですか。旬の野菜ありきで、その日に食べる料理を考えるのが皆の日常になったら、と思ったんです」

農家さんはなるべく負担が少なく野菜を販売することができ、自分たちは旬のおいしい野菜を知り、食べることができる仕組みを作りたい。

そう考えた愛さんがブログで「農家さんの野菜の共同購入を始めようかな~」とつぶやいたところ、翌日には90家族より申し込みがありました。その後、1か月に2回、40家族ずつがこうした形でこの小屋に野菜を購入しにきて、2年が過ぎたところです。

この数年間、ブロ雅農園をはじめ、他の農園からのものも含めて皆でレスキューした「もったいない野菜」は、今では累計4~5トンほど。楽しく美味しく、廃棄を削減できているとのことでした。

ブロ雅農園さんに伺う:農家の方にとって「もったいない野菜」の取り組みとは?

ブロ雅農園さんは、三浦半島で30年以上続いている農家で、今のように少量多品目という形で100種類ぐらいの野菜を作るようになったのは鈴木さんの代から、ここ5年ぐらいとのことでした。

取材日にブロ雅農園さんが卸に来た野菜7種。聞いたことのないような珍しい野菜ばかりでした!

取材日にブロ雅農園さんが卸に来た野菜7種。聞いたことのないような珍しい野菜ばかりでした!

「もともとおじいちゃんが、農薬を使わない野菜を実験的に作ったり、育てたことのない珍しい野菜をつくったりしていました。地域で初めてモロヘイヤをつくったのは自分のおじいちゃんでした。

農薬に弱い体質の家族もいたことから、逗子でよく作られている大根やキャベツ、ジャガイモなどのメインとなる野菜は他の農家さんに任せて、自分は少量多品目かつ無農薬で、より色んな野菜を作ろうと思って今のスタイルを始めました。

野菜を売るとなったら直売所販売することが多いですが、直売所販売ではA級・B級品に分けて、袋に入れバーコードを貼って、パッケージ化して、直売所に運んで、1日販売して、売れなかった分は自分たちでまた回収して、袋から出して、廃棄するというような時間ばかりがかかる作業が多く発生してします。

大変なわりに売れ残ったりすると本当に残念で、どのくらい売ることができるかも不安定です。

ですが、ここでの共同購入の場合は、野菜の種類も、A級品もB級品も、みなさん分け隔てなく購入してもらえるので、農家としてもとても助かっています。
食べ方がわからない珍しい野菜も多いので(笑)ここに野菜を卸に来た時はいつも、今日運んできた野菜のおいしい食べ方などを紹介する動画を撮ってもらい、野菜を購入して下さる方々へ配信してもらっています」

おいしいものを地域でおいしく!「もったいないまま」はもったいない

野菜を買いに来たお母さんにお話を伺ってみると、「月1回ここで野菜を買っては、自分たち家族だけでは食べきれないので、お友達と分けています。おいしいですよ~!」と感想も上々でした。

夕方になると、うみのこ保育園に子どもを迎えに来た親御さんとお子さんが、楽しそうに一緒に野菜を選んでいる姿がありました。
A級品の形が綺麗でツヤツヤした野菜を選ぶ子もいれば、B級品の変わった形をしたものを「おもしろい!」と選ぶ子もいました。何より、子どもたちが積極的に野菜に興味を持っていることが、この取り組みと地域のあり方の素晴らしいところのひとつだと感じます。

最後に、愛さんからは、この取り組みに対して次のような言葉をいただきました。

共同購入の野菜は1800円で販売しています。農家さんには “そのとき畑にあるものを1500円分、ご持参ください” として、残り300円のうち、100円は場所代、100円は会計と事務担当者のアルバイト代、100円は「もったいない基金」への貯金としています。
基金のお金でみんなの小屋に冷蔵庫を購入したり、困りごとを抱えた農家さんの野菜を買い取ったり、地元小学校での食育に貢献できないかなど話し合っているんです。

買う側の私たちは、地元の農家さんの旬の野菜が食べながら社会貢献ができる。農家さんにとっても安定的な販売先ができる。どこの地域でもこの仕組みを導入すれば、お互いのニーズに合っていていいのにって、本当に思います」

 

生きていく上で、食べることは切っても切れない大事なことです。でも自分たちで食べるものを自分たちで全部つくることは難しい、だからこそ農家さんの存在はとても重要です。

これからの時代は、もっと農家さんに寄り添った「生産者が正当に評価される(FAIR)」ことに目を向けて、子どもも大人も地域一体で持続可能な暮らしを実現していきたいですね。

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最後に:今回インタビューさせていただいたブロ雅農園さんより、ご厚意でお野菜をいただきました!

袋いっぱいにいただいたお野菜は、どれも新鮮で食べたことのないものばかり!当社の社員で分けて、動画でブロ雅農園さんがオススメされていた料理方法などでおいしくいただきました。

じゃがいも2種(ノーザンルビーとシャドークイーン)は色が鮮やかで楽しい食卓になりました。また、摘果メロンも癖のないキュウリみたいでおいしかったです。

ブロ雅農園さん、本当にありがとうございました!

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