IPCC報告書から見る気候変動問題と世界の現状[日本のエネルギー戦略]

環境

IPCC報告書から見る気候変動問題と世界の現状

実は、日本の液化天然ガス(LNG)の約9%をロシアのサハリン2から輸入しています。

しかし、2022年6月30日に、ロシアのプーチン大統領はサハリン2の権益などを引き継ぐ新たな事業団体を設立するという大統領令に署名しました。また、この大統領令は同日に発効されました。

非友好国からのロシアへの制限措置に対する対抗策の一環と思われるこの対応により、今後日本もロシアからLNGの輸入ができなくなる可能性があり、電力ひっ迫している日本にとって打撃になるでしょう。

ではなぜ、日本はこんなにもエネルギーが足りていないのでしょうか?
今回は、IPCCの報告書などから世界の気候変動状況やCO2排出量の分析、そして今後のエネルギー転換の展望まで解説します。

IPCC報告書から見る世界の気候変動の現状

そもそも「IPCC」とは?

IPCCとは、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)」の略です。

この組織は、人為起因による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価をおこなうことを目的として、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立されました。

2021年8月時点で、195の国と地域が参加しています。

☞詳しくは:気象庁HP「IPCCとは」

世界の地球温暖化は人間活動の影響が大きく「疑う余地がない」

IPCC第6次報告書によると、気候変動対策の緊急性はますます高くなっているということです。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_世界平均気温の変化

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

2007年の報告書では、20世紀半ばまでの温暖化のほとんどは、「人為起因の温室効果ガス濃度の増加による可能性が非常に高い(90%以上)」と発表されました、
また、2021年~2022年の報告書では、人間活動の影響が大気や海洋及び陸域を温暖化させてきたことには「疑う余地がない」という強い表現に変わっています。

では、現在世界のCO2排出量はどうなっているでしょうか?

カーボンバジェットで見るCO2排出量

「カーボンバジェット」とは?
「カーボンバジェット(炭素予算)」とは、人間活動を起源とする気候変動による地球の気温上昇を一定のレベル(1.5℃など)に抑える場合に想定される、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量と将来の排出量の合計)の上限値。
つまり、過去の排出量と気温上昇率を元に、将来排出可能(許容可能)な量を推計できるということです。
(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構)

この「カーボンバジェット」で推計すると、CO2排出量は以下のようになります。

・既存のインフラから排出されるCO2累積排出量:660Gt/CO2
→新しく計画されている化石燃料インフラも含めた排出量合計:850Gt/CO2

温度上昇を1.5℃に抑えるとして、CO2排出量の許容範囲は510Gt/CO2と言われています。つまり、すでに1.5℃目標内に収められていないというわけです。

CO2排出量/GHG排出量を削減できている国々

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_CO2・GHG排出が低減し続けている国々

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

ただし、少なくとも18カ国は、⽣産に伴うGHG排出量と消費に伴うCO2の排出削減を10年以上の⻑期にわたって持続させています。今ある既存の技術や、エネルギー効率の向上などをおこなうことにより削減しているとのことです。

そのほかにも、CO2排出量の削減には、エネルギー供給の脱炭素化やエネルギー効率の向上、エネルギー需要の削減などが必要です。そのため、政策と経済構造の両方の変化が必須となりますが、⽣産に伴うGHG排出量をピーク時から3分の1以上削減した国も複数存在しています。

また、温暖化を2℃に抑えられる可能性が⾼いシナリオに沿った場合の、世界の削減率に相当する年率4%前後の削減率を、数年間連続して達成した国も複数存在しています。

ただ、この複数国が削減したCO2排出量は、世界全体のCO2排出量の増加を部分的に相殺するにすぎないとのことです。

一方、日本のCO2排出量の削減はどうなっているかというと、順調に下がってきていますが、まだ十分ではないことがわかります。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_日本の現状

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

CO2排出量削減に:脱炭素化へのコストの変化

先ほどもお話した通り、CO2削減にはエネルギー供給の脱炭素化をおこなうことが重要になってきますが、再エネ発電技術とバッテリーBEVのコスト低減により、下図の通り普及量も加速的に増えています。

世界的に再生可能エネルギーのコストは低下傾向

2010年から2019年にかけては、太陽光発電(85%)、⾵⼒発電(55%)、リチウムイオン電池(85%)の単価が継続的に低下しました。そのため、地域によって違いはあるものの、太陽光発電は10倍以上、電気⾃動⾞は100倍以上の普及が進みました。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_再エネコスト

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_)

削減費用は、CO2換算で1トンあたり100米ドル以下になると、2019年レベルの世界のGHG排出量の少なくとも半分の削減を2030年までに達成できる可能性が高いと報告されています。

太陽光発電はすでに100米ドル以下でつくることができるので、2030年におけるCO2削減ポテンシャルが他のエネルギーに比べて高いと言えます。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_2030年における削減ポテンシャル

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

そのため、日本も2030年までにCO2排出量を45%にすることは、すでにある技術で達成することが可能です。

IPCCの報告書による今後の展望

IPPCの報告書では、以下のように述べられました。

「THERE ARE OPTIONS AVAILABLE NOW IN ALL SECTORS THAT CAN AT LEAST HALVE EMISSIONS BY 2030.
UNLESS THERE ARE IMMEDIATE AND DEEP GHG EMISSIONS REDUCTIONS ACROSS ALLSECTORS, 1.5°C IS BEYOND REACH.
THE NEXT FEW YEARS WILL BE CRITICAL, BUT THERE ARE WAYS TO IMPROVE OUR CHANCES OF SUCCESS.」

『2030年までに排出量の半減を実現するための対策の選択肢は存在します。
しかし、すべてのセクターでGHG排出量を即時かつ大幅に削減されない限り、1.5°Cに到達してしまいます。
今後数年間が正念場ですが、私たちには成功の可能性を⾼める⽅法があります。』

原油の高騰:進められる再生可能エネルギーへの移行

原油の価格推移を見てみると、ウクライナ進行前もエネルギー価格は上がっていますが、ウクライナ進行後には加速的に価格が上がっていることがわかります。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_エネルギー価格上昇

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

原油の素となる化石燃料は特定の地域で産出されます。また産出国の一部では、政治経済が不安定なところも多く、エネルギー危機問題の1つになっています。
日本の化石燃料の自給割合はかなり低く輸入に頼っているため、今回のようなウクライナ戦争による原油価格高騰の影響をかなり受けています。

IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1_化石燃料の自給割合

(出典:IPCC AR6 WG1 SPM Figure SPM.1)

安全保障の面でも有効となる再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは基本的にどの地域でもエネルギーを生み出すことできます。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、「新たな世界―エネルギー変容の地政学(自然エネルギー財団翻訳)」の中で次のように述べています。

「再生可能エネルギーへの移行から生まれる世界は、化石燃料を基盤につくられた社会から大きく様変わりするだろう。世界の勢力の構造と体制は多くの面で変化し、国内の力関係も変容するだろう。権力は分散し、拡散していくであろう。

中国など一部の国は、再生可能エネルギー技術に多額の資金を投資し、再生可能エネルギー分野での影響力を増すことだろう。相対的に、化石燃料輸出に大きく依存しエネルギー移行に対応できない国はリスクにさらされ、影響力を失うと思われる。エネルギー供給は、もはや少数の国家が独占するものではない。大半の国々が、エネルギーの自立を実現できる能力を持つようになり、自国の発展と安全保障を高めることができるからだ。」

☞詳しくは「新たな世界―エネルギー変容の地政学」

自然エネルギー基盤を目指して:世界と日本のエネルギー政策

自然エネルギー財団の「2030年エネルギーミックスへの提案(第1版)―自然エネルギーを基盤とする日本へ(2020年8月)」では、化石燃料の時代から自然エネルギーの時代へ移行するため、これからのエネルギーミックスに次のことが提案されていました。

<自然エネルギーへの転換により、新たな観点の「3E+S」を実現するとして>
1.脱炭素社会の実現
2.化石燃料に依存しない安定供給の確保
―不安定な化石燃料依存からの脱却
3.自然災害やテロなどによるリスク低減
-原発事故リスク、大規模電源依存の会費
4.アフォーダブルなエネルギー供給
―化石燃料の輸入総額は約16兆円

これは2020年の発表ですが、その後ウクライナ戦争で化石燃料に頼る日本の脆弱なエネルギー自給率問題と安全保障の問題が浮き彫りになったと言えると思います。その問題点を解決するためにも、化石燃料に頼らない脱炭素社会へのシフトがなお一層急がれます。

「3E+S」とは?
安全性(Safety)を大前提とし、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時達成するという目標。

経済産業省資源エネルギー庁「3E+S」

(出典:経済産業省資源エネルギー庁「3E+S」)

日本以外の世界各国のエネルギー政策に関しては、いくつかの国や地域をピックアップして見てみましょう。

世界のエネルギー政策:EUの場合

EUは、3月8日にロシアのウクライナ侵攻に対するEUのエネルギー戦略を発表しました。具体的には、2022年末までにロシアからの天然ガス輸入量を1/3に減らすと述べています。

その他、屋根置き太陽光発電の導入を加速したり、自然エネルギーの開発プロジェクト手続きの加速、産業の脱炭素化、バイオメタン水素開発やグリーン水素開発の加速、天然ガス調達の多様化などをおこなっていくと発表しました。

世界のエネルギー政策:フランスの場合

フランスは、原発を新設するというニュースばかりが流れていますが、原発を新設する計画はあるものの、同時に自然エネルギーを太陽光発電100GW、風力発電40GW以上にするとマクロン首相は発表しています。

世界のエネルギー政策:イギリスの場合

イギリスは島国なので、同じ島国である日本とエネルギー状況が似ているといわれていますが、2035年にはすべての電力を再生可能エネルギーに切り替えると、エネルギーの安全保障戦略の観点から決定しています。

世界のエネルギー政策_イギリスの場合

脱炭素化に向けた日本のエネルギー戦略

日本のエネルギー戦略は、再エネや原子力などの実用段階にある脱炭素技術を活用し着実に脱炭素化を進める方向にあります。

その1つの方法である「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」は、排出されたCO2を集めて地中に貯留してしまおうというアイデアを実現したものになります。CO2を集めて埋めることで、CO2排出量を削減することができると発表されてします。

しかし専門家によると、海に埋める場所がなくなったり、すべて吸収できない場合は、CO2を海外に輸出するといったような手段をとらざるを得なくなるので、結果的に他国への依存という構造を変えることができないという意見もあるようです。

今、世界各国がエネルギーの安全保障の観点から再生可能エネルギー導入促進をし、自国のエネルギーは自国でつくるという発表を続々としています。

これらを他の国のことと思わずに、日本も国内にあるエネルギーにもっと目を向け、太陽光発電などの地産地消できる再生可能エネルギーをますます積極的に増やしていく必要があると思います。

当社も自家消費型太陽光発電や蓄電池のご提案を通じて、日本の再生可能エネルギーのさらなる普及に尽力していきたいと思います。

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