捨てられるビールのモルト粕をストーリー性ある「クラフトビールペーパー」にアップサイクル!株式会社kitafuku

インタビュー

クラフトビールを醸造する段階で出るモルト粕でさまざまなクラフトビールペーパー商品を作成する株式会社kitafuku。

今回は、代表の松坂 匠記(まつざか しょうき)さまと、取締役の松坂 良美(まつざか よしみ)さまに、エンジニアであるお二人がなぜクラフトビールペーパーを作ろうと思ったのかなどについて、詳しくお話を伺いました。

クラフトビールペーパーを始めたきっかけ

もともと自分たちの社名も、妻の出身地である北海道と自分の出身地である福岡、それぞれの地元を大事にし、そして今住んでいる横浜地域の問題解決をしていこうという思いを込め、北海道の北と福岡の福から取ってkitafukuという名前にしました。

2020年頃、コロナ禍の真っただ中ということもあり、飲食店や花屋といったサービス業で集客が落ち込み、結果的にフードロスなどの廃棄が増えているのではないか?ということをお店の方々に聞きに行きました。

クラフトビールペーパーは、コロナで苦しむ飲食店のフードロスや廃棄などの問題を解決したいと思い、取り組み始めたことがきっかけでした。

クラフトビールの「モルト粕」が大量発生

横浜ビールさんに話を聞いたとき、クラフトビールを作る際に出てくる「モルト粕(かす)」が大量に出てきて困っているとのことでした。

モルト粕の一部は農地に肥料として撒いたり、動物の餌として利用されることもあるそうですが、それはほんの一握りで、ほとんどは廃棄処理されるとのこと。

自分たちは、横浜ビールさんで出てくる大量のモルト粕を再利用することで、少しでもフードロス問題を解決できるのではないかと考えました。具体的には、前職の同僚が紙の研究をしていたので、モルト粕に紙を混ぜて再利用できないかと思い、連絡を取ってみました。

その際、元同僚が取締役を務めている奈良県の株式会社ペーパルという紙卸会社さんが、廃棄する米を古紙などに混ぜて紙に再生していることを知り、ペーパルさんにご協力をいただきながら、モルト粕を混ぜた紙の開発を始めました。

クラフトビールペーパー誕生、紙にするまでにはたくさんの失敗も

モルト粕を古紙に混ぜて紙を作ろうと思ったのはいいのですが、最初はモルト粕の性質を全然知らなかったので「製紙ラインが空いたらテストで紙を作ってみてください」という調整を行なってテスト製造をしました。

しかし、モルト粕はもともと水分をかなり含んでいて、日が経つとカビたり、発酵がすすんで異臭がしたりと、紙にすることはできませんでした。

モルト粕は水分を多く含んでおり、カビなどの繁殖が早い

そこで、モルト粕を脱水、乾燥、粉砕するなどの工程を入れて紙を作りました。

ただ、こうした工程を入れてしまうと脱水するための工場に運んだり、乾燥や粉砕などによりエネルギーを消費するため、環境負荷の面で改善できる余地がありました。

環境面での改善、製造工程の見直しから、2回目以降は製紙ラインを確保してから、ブルワリー(ビール醸造所)の仕込みのタイミングと併せて、脱水・乾燥・粉砕の工程を入れない形で紙にしてもらいました。

モルト粕や古紙などを混ぜて最適な紙に仕上げ

モルト粕が多いとボソボソした凹凸が多い紙になり、下手をすると印刷機に詰まって印刷機が壊れる恐れもあったので、今はモルト粕を6%ほど混ぜて紙に仕上げています。

モルト粕以外だと、回収された古紙と混ぜています。クラフトビールペーパーはFSC認証を取得し、より環境に配慮された用紙になっています。

モルト粕を混ぜた紙を製造する様子

地域のブルワリーと協力/その土地ならではのクラフトビールペーパー

クラフトビールのブルワリーは全国で600か所、横浜でも10か所以上あります。

最初は、横浜ビールさんの協力を得てクラフトビールペーパーを作っていたのですが、ブルワリーさんは横のつながりも強く、ブルワリーさん同士で同じ課題感を持っていました。

「いいものだったら積極的に使っていきたい」という気持ちの方が多く、今は横浜ハンマーヘッドにもある「NUMBER NINE BREWERY」さんにもいろいろアイディアをもらって、商品開発をしています。

同社でもモルト粕の廃棄には苦労されていて、モルト粕を使った紙に興味を持っていただき、最初はビールのメニュー表として採用していただきました。その後、「少し厚みのある紙で名刺が欲しい」「クラフトビールを入れる箱が欲しい」などいろいろリクエストをくださり、そのリクエストに応じる形でさまざまな商品を開発しています。

「NUMBER NINE BREWERY」クラフトビールを入れる箱

クラフトビールペーパーを買ってくれるお客さまにはブルワリーさん以外にも個人の方からも多く、ネットから注文を受けたり、「ポストカードはないんですか?」というお問い合わせなども多くいただいたので、現在ではポストカードも作って販売しています。

☞まだまだある紙のリサイクル、アップサイクルの事例についてはコチラ

12/16「紙の日」×再利用してリサイクル!SDGsな取り組み事例

クラフトビールペーパーを通して環境問題を自分事として考えてもらえるきっかけに

私はもともと、工業地帯の発展などにより、さまざまな環境影響を受ける街に住んでいました。地域の方々の努力により、空気や水がきれいになっていく様子を間近でみてきました。

起業するとき、自分たちは2人ともエンジニアという立場でしたが、システムを構築することと何か形として届けられるプロダクトを売り出したいという思いはありました。

そして、「これから新しく製品を作るなら環境に配慮したものがいいよね」ということで、今のクラフトビールペーパーにたどり着きました。

さまざまなイベントでカップフォルダーやノベルティとして使用していただいたり、横浜の飲食店でメニュー表やコースターなどで利用してもらうことで、このアップサイクルの仕組みに知らず知らずのうちに参加してもらい、自然に世の中に広がっていけばいいと思っています。

大量に出てくるモルト粕を再利用し環境負荷を減らすことを目標に、最初はモルト粕の量も30kg程度でしたが、今や1,400kg以上を回収し、紙にしてきました。

今後もクラフトビールペーパーを使った製品づくりを商業施設やイベントなどのノベルティとして提案していきたいと思います。

☞プレスリリース『​モルト粕活用クラフト紙「クラフトビールペーパー」、FSC®認証を取得。回収したモルト粕は1000kgを突破』

今後のkitafukuの目標とは

株式会社kitafuku_オフィス

やりたいこととしては3つあります。

1つはヨーロッパなどの海外でクラフトビールペーパーを販売することです。日本よりもっとサステナブルな意識が強い海外の人たちに、クラフトビールペーパーを販売したいと考えています。

2つ目は、モルト粕の問題を抱えるその地域ごとのブルワリーさんとともに、その土地の製紙会社・印刷会社との連携を増やしていきたいです。モルト粕はかなり運搬費用もかかり、最初にお話ししたとおり、日が経つにつれてカビや臭いなどの問題が発生してきます。

そのため、モルト粕が出た段階ですぐに近くの製紙工場で紙にすることができれば、環境負荷も減らすことにつながりますので、地域の製紙工場、印刷会社さんを開拓していきたいと思います。

3つ目は、アップサイクルの取り組みやイベントを横浜だけでなく、日本全国でもっと展開していければと考えています。

自分たちはIoTデバイスの開発やITコンサルティング、クラフトビールペーパーを通じて地域や企業の課題を二人三脚で解決していきたいと考えています。

あとがき

クラフトビールをつくるときに大量のモルト粕ができることなぞつゆ知らず、ただただビールをおいしく飲んでいた私ですが、今回kitafukuさんのお話をお伺いし、醸造の過程で大量に出るモルト粕のことを初めて知りました。

また、今回のインタビューを通して廃棄物をただ廃棄するだけではなく、アップサイクルして新たに活用できることがわかりました。

kitafukuさんは神奈川県のベンチャー企業が集う「SHINみなとみらい」 で活動されていて、さまざまなスタートアップ企業さんと一緒のお部屋でコミュニケーションをとりながら、新しいビジネスを構築されていました。

0から1にしていくのは大変な仕事だと思いますが、「ストーリーがある商品づくり」を思いや課題を共有できる仲間とともに築いていて、0から1の世界ではなく、100倍、200倍もの早さと熱量で、仕事やプロダクトを生み出しています。大変感心するとともに応援していきたいと思いました。

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