FIP制度「プレミアム価格」算出方法を実践!試算シミュレーションをやってみた
FIP制度解説第5弾:実際にシミュレーションをやってみた
FIP(フィードインプレミアム(Feed-in Premium))の内容解説第5回目になります。
これまでの第1~4回目をまだ読まれていない方は、先にそちらを読んでいただくとより理解が深まるかと思います。
さて今回は、FIPの簡易的なシミュレーションをおこなっていきます。
FIPにおける発電事業者の収入は、[売電収入+プレミアム価格]になるということは前回まででお話してきましたね。そして、プレミアム単価は卸電力市場に連動して決定されます。
“市場に影響される”といいますが、実際はどう動くのかをざっくり掴んでいただければと思います。
ぜひ紙とペンを用意して、実際に計算しながら読みすすめていただくことをおすすめします。
それでは早速見ていきましょう。
<これまでのFIP解説記事シリーズ>
第1弾「FIP制度とは?2022年度から始まる[再エネ電源主力化]」
第2弾「徹底比較|FIP制度とFIT制度[目的の違いとは?]」
第3弾「FIP制度のリスクとメリット[発電事業者の義務3点]」
第4弾「FIPの基準価格と参照価格:プレミアム価格の決定方法」
おさらい!FITの場合のシミュレーション
FIPのシミュレーションの前に、ご存じFITの場合のシミュレーションを見てみましょう。
買取価格を「10円」とすると、下記のようになります。
発電量を毎月1kWhの発電とした場合、10円×1kWhなので、毎月10円の収入があります。
皆さまご存じのように、市場に影響されることなく、毎月固定の価格が収入となります。
ここまでは大丈夫ですね。それでは次からFIPの場合になります。
【FIPの場合】プレミアム単価の試算シミュレーション
試算にあたって下記の条件を前提とします。
【試算前提条件】
・FIPの基準価格は10円とする
・今回はバランシングコスト、非化石価値については考えない(0円とする)
・発電量については変動を考えず毎月1kWhの発電とする
・FIPは前年の市場価格の影響を受けるため2年分(N年度、N+1年度)の収入について試算
・N-1年度は市場価格が8円/kWhで推移したとする
①市場価格がN-1年から変動せず、安定していた場合
まず、前年から市場価格が推移せず8円で安定した場合のシミュレーションです。
例えば、N年度4月分(ピンク枠)で見てみましょう。
参照価格から求めていきます。
参照価格=
前年度年間平均価格+(当年度月間平均-前年度月間平均)+非化石価値市場収入-バランシングコスト
なので、8+(8-8)+0-0=8となり、8円が参照価格となります。
毎月のプレミアム価格は[プレミアム価格=基準価格-参照価格]の式なので、
10-8=2となり、2円がプレミアム価格となります。
発電者の単月の収入は[市場収入+プレミアム]なので、
8+2=10となり、10円が収入となります。
つまり、今回のように市場が変動しない場合は、2年間でFITと同等の収入を得ることができます。
②N年度、N+1年度の市場価格がN-1年から大きく変動しなかった場合
次は、N-1年度での平均価格が8円で推移し、N年度は平均価格が6.92円、N+1年度は6.75円と市場に大きな変化がなかった場合のシミュレーションです。例えば、N年度4月分で見てみましょう。
<N年度4月分(ピンク枠)>
参照価格は、8+(7-8)+0-0=7円となります。
プレミアム価格は、10-7=3で、3円となります。
最終的な発電者の収入は、7+3=10となり、10円となります。
<N+1年度4月分(水色枠)>では
参照価格は、6.92+(5-7)+0-0=4.92円となります。
プレミアム価格は、10-4.92=5.08で、約5.1円となります。
最終的な発電者の収入は、5+5.1=10.1となり、10.1円となります。
このように市場に大きな変動がなければ、FITの単価とほぼ同じ収入を得ることができます。
③N年度の市場価格がN-1年より大きく下落した場合
N年度において、4,5,9,10の4か月が前年より下落した場合のシミュレーションです。この4か月分については、前年比で6.0円ほど金額が下がったとします。(黄枠)
<N年度の4,5,9,10月分>
参照価格は、8+(2-8)+0-0=2円となります。
プレミアム価格は、10-2=8円となります。
発電者の収入は、2+8=10円となります。
<N+1年度4月分(ピンク枠)>では
参照価格は、6+(8-2)+0-0=12円となります。
そして、単純に計算した場合、プレミアム価格は次の通りとなります。
10円(基準価格)-12円(参照価格)=-2円となります。
ポイント!プレミアム価格がマイナスになる場合
プレミアム価格がマイナスとなってしまっては、市場収入からプレミアム分を差し引くことになり、発電者の収入が減ることになってしまいます。
しかし、FIP制度は再エネ導入支援のための価格支援制度なので、“基準価格が参照価格を下回る場合であっても、再エネ発電事業者にマイナス分のプレミアム(ネガティブ・プレミアム)の支払いを求めないことを基本とする”としています。
そのため、「-2円分」は下限値である0円となり、結果として発電者の収入は市場からの「8.0円分」のみとなります。
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<N年度において価格が下落しなった月のN+1年度分(水色枠)>では
参照価格は、6+(8-8)+0-0=6円となります。
同様にプレミアム価格は、10円-6円=4円となります。
発電者の収入は、8+4=12円となります。
このようにして市場が下落した翌年は、下落月ではプレミアムが付かないものの、下落月以外においてプレミアム収入が多くなったりすることが考えられます。発電量はこのタイミングで最大化させられるとより収益も大きくなりそうですね。
④N年度の市場価格がN-1年より大きく高騰した場合
N年度において、12,1の2か月が前年より高騰した場合にシミュレーションです。これを同様に計算していくと、上図のようになります。
・高騰月(黄枠)では、市場高騰によって多くの収益が挙げられますが、プレミアムはつきません。
・N+1年度においては、N年度の市場平均単価が上がってしまったので、次年度のプレミアムがつかない月が多くなります。(ピンク枠)
・一方で、N年度に高騰した月は、N+1年度で大きなプレミアム単価を得ます。(水色枠)
最後は計算式を記載しないでおくので、一度上記の数字になるか実際に紙に書いて計算してみてください。実際に試算してみると、より理解が深まると思うので、ぜひチャレンジを!
FIP制度は収益を多く上げるチャンス
いかがでしたでしょうか。
FIP制度では、このように市場変動によって得られる収益額は変わっていきます。
今回は発電量について考えていませんが、実際の運用では単価が高くなりそうな時期や時間帯を見極めて、発電量を最大化することで収益も大きくなります。
FIPを利用する太陽光は、南向きの設置がベストではなく、市場価格が上がりやすい夕方に向けて発電量を最大化するために「西向きに設置するようになる」なんてことも考えられるかもしれません。
補足1点:基準価格について
前回の記事で、基準価格については以下のように説明しました。
基準価格とは、FITの調達価格と同じ考え方で決められています。発電設備の建設コストから逆算し、「このくらいの価格であれば設備費回収ができるだろう」という価格になります。これは1年毎に定められます。
現在、FITの買取を使用している発電設備についても、FIPに乗り換えることが可能です。
この場合、適用されているFITの買取価格がそのまま基準価格となり、残りの買取期間について適用されます。例えば、2013年度単価が適用されている10kW以上の発電所であれば、FITは「36円」の20年間買取となります。
仮に買取価格適用期間が8年経過している場合、基準価格を「36円」として12年間プレミアムが付くということになります。
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FIP制度の解説記事は、今回で一旦終了となります。
今後も制度の変更点などが出てきましたら、サステナブルスイッチにて記事を掲載していきたいと思います。
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