川崎市も太陽光発電の設置義務化へ【東京都との制度の違いとは?】
日本でも進む太陽光発電義務化
今、日本国内では、新築建造物などへの太陽光発電設備の設置義務化が少しずつ進み始めています。2025年4月に東京都でも同様の義務化制度が施行開始されることは話題にもなりました。
そして、同じ2025年4月から義務化を施行予定としているのが“神奈川県川崎市”です。そこで今回は、川崎市の太陽光発電設置義務化について詳しくご紹介します。
ただその前に、「太陽光発電設備の設置義務化」は世界ではいつからどのように展開しているのか?まずは、世界の動向と日本の動きを簡単に確認してみましょう。
世界で取り組まれている太陽光発電義務化
●アメリカの場合
・2019年:ニューヨーク市で新築や大規模屋根修繕建築物に太陽光発電の設置または緑化を義務化
・2020年1月:カリフォルニア州で新築住宅(戸建・集合住宅など)に太陽光発電の設置義務化
●EUの場合
・2022年5月18日:EU委員会は2029年までの段階的な公共・商業建物、新築住宅への太陽光発電の設置義務化を提案
●ドイツの場合
・2023年1月1日:ベルリン市で住宅・非住宅(全ての新築・条件を満たす既存建物)への太陽光発電の設置義務化(その他複数の州政府でも太陽光発電義務化条例の導入が進む)
上記の通り、特にアメリカでは先行して意欲的に取り組まれていることがわかります。環境政策において、世界的にも先頭をいくカリフォルニア州では、2045年に“完全脱炭素化”を目指しており、現在は次の目標であるオール電化に向けて動き出しています。
日本で取り組まれている太陽光発電義務化
●京都府の場合
・2016年1月1日:「京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例」全面施行
➡2022年4月1日: 改正条例施行
●群馬県の場合
・2023年4月1日:「ぐんま5つのゼロ宣言実現条例」施行
●東京都の場合
・2025年4月:改正条例施行予定
●神奈川県川崎市の場合
・2025年4月:改正条例施行予定
日本では現在、すでに2府県で太陽光発電義務化関連の条例が施行されています。特に、最初に取り組みを開始したのが京都府というのは驚きですね。
そして、2025年4月からは東京都・神奈川県川崎市での条例施行が控えています。今回は、川崎市の「太陽光発電設置義務化」にスポットを当てて詳しくご紹介します。
☞東京都の太陽光発電設置義務化についてはコチラ
川崎市の脱炭素社会に向けた取り組み
神奈川県川崎市は産業系都市であるため、2020年度時点のデータでは全国平均と比べても、産業系の二酸化炭素排出量は倍近い割合を占めています。同様に、市域の温室効果ガス排出量も政令指定都市の中で最も多くの排出量を記録しています。
つまり、川崎市がカーボンニュートラルの対応に遅れることは、市内の環境と経済に大きな打撃を与えることになります。
そうした状況を受け、川崎市は令和4年(2022年)3月に「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」並びに実施計画の全面改定をおこないました。その後、翌年2023年にも条例の全面改正がおこなわれ、その際に以下の新たな制度がつくられました。
【川崎市地球温暖化対策推進条例:概要】
令和5年(2023年)3月:「川崎市地球温暖化対策推進条例」の全面改正を実施。
→2030年度までにそれぞれ以下のような目標が設定されました。
<2030年度目標>
・市域全体で温室効果ガスを50%削減(2013年度比で-1,080万t-CO2)
・民生系で45%以上削減
・産業系で50%以上削減
・市役所で50%以上削減
・再エネを33万kW以上導入(2020年度実績20万kW)
川崎市の太陽光発電導入制度:条約改正のポイント
新たな条例制度「建築物太陽光発電設備等総合促進事業」では、以下4つの制度が設定されました。
①特定建築物太陽光発電設備等導入制度
②特定建築事業者太陽光発電設備導入制
③建築士太陽光発電設備説明制度
④建築物太陽光発電設備誘導支援制度
次に、それぞれどういった内容かを簡単にまとめてみました。
①特定建築物太陽光発電設備等導入制度
延べ床面積が2,000㎡以上ある“大規模建築物”への太陽光発電設備等の設置を義務づける制度です。
対象者 | 延べ床面積2,000㎡以上の建築物(=特定建築物)を新築・増築する建築主 |
対象設備 | 太陽光発電設備、太陽熱利用設備、バイオマス利用設備、風力発電設備、地中熱利用設備など |
設置基準量 | 特定建築物の規模に応じた量 |
代替措置/除外規定 | ●物理的に設置が困難であったり、設置がCO2削減に寄与しない事が見込まれる場合に代替措置を検討する。 ●大規模建築物はエネルギー使用量が多くCO2も多く排出するため、環境負荷に対する社会的責任が大きい事から、除外規定を設けないことを検討する。 |
②特定建築事業者太陽光発電設備導入制度
延べ床面積2,000㎡未満の“中小規模建築物”への太陽光発電設備の設置を義務づける制度です。
対象者 | 延べ床面積2,000㎡未満の新築建築物を市内に年間一定量以上建築・供給する建築事業者(特定建築事業者) |
対象設備 | 太陽光発電設備 |
設置基準量 | 年間供給棟数×棟当たり基準量(太陽光発電設備容量(kW))×算定基準率(%) |
代替措置/除外規定 | ●物理的に設置が困難であったり、設置がCO2削減に寄与しない事が見込まれる場合に代替措置を検討する。 ●義務対象者と住まい手が異なるため、代替措置を取ることが困難なケースも想定される事から、除外規定を設けることを検討する。 |
③建築士太陽光発電設備説明制度
建築士に対し、建築主への「太陽光発電設備の設置に関する説明」を義務づける制度です。
対象者 | 建築士 |
大規模建築物・中小規模建築物どちらにも適用される制度です。既存の「建築物省エネ法制度」の省エネ性能説明義務にプラスされる形で、今回の太陽光発電設置の説明義務が追加となりました。
④建築物太陽光発電設備誘導支援制度
今回、義務対象となる新築・増築建築物以外に義務対象外の既存建築物も含め、太陽光発電設備の普及を推し進めていくため、導入に関するさまざまな支援の枠組みの創設する制度です。
●検討する具体的な支援方法
・太陽光発電設備設置に関する相談窓口の設置
・普及促進に繋がる情報の発信
・事業者などへ対する研修やセミナーの実施
制度の導入効果の試算
今回の条例制度を導入することで、川崎市の2030年度までの再エネ導入目標(33万kW以上)に対して、必要となる追加措置の約4割相当(約2.5万kW)の効果となる見込みと公表されています。
また、本促進事業の実施によるCO2削減効果は、2030年度時点での年間削減量を約-1.4万t-CO2削減すると見込まれます。そのため、民生家庭部門においては、追加で必要な削減量の約17%に相当するものとなり、目標達成に大きく貢献すると考えられています。
東京都と川崎市の太陽光発電設置義務化制度の違い
最後に、同時期に太陽光発電設備の設置義務制度が施行される東京都の新たな制度「建築物環境報告書制度」と、川崎市の「建築物太陽光発電設備等総合促進事業:②特定建築事業者太陽光発電設備導入制度」の同じ点、異なる点について、簡単にまとめてみました。
【中小規模向け】東京都と川崎市の制度の相違点
<比較対象>
●東京都「建築物環境報告書制度」
●川崎市「建築物太陽光発電設備等総合促進事業:②特定建築事業者太陽光発電設備導入制度」
<同じ点>
●対象建築物:延べ床面積2,000㎡未満の新築
●義務対象者:特定建築事業者
<異なる点>
●対象設備:
→東京都:太陽光発電、太陽熱利用、地中熱利用、その他再エネ利用設備など
→川崎市:太陽光発電のみ
そのほか設置基準量の算出方法につきましては、大枠は同様の式ですが、詳細はそれぞれ異なりますのでご確認ください。除外規定などについてもその通りです。
川崎市独自の補助金支援も
川崎市では、個人住宅向けに「スマートハウス補助金」という補助事業による導入支援もおこなわれています。これは、新築のみではなく、既築の住宅も対象となります。
予算額 | 令和5年度:3,500万円 |
対象者 | 市内の個人住宅に在住(または転居予定)の方 |
募集期間 | 令和5年(2023年)4月5日∼令和6年(2024年)1月31日 →2023年11月30日に予算超過で現在受付終了 |
補助設備/金額 (一部例) |
●太陽光発電システム:出力1kW/2万円(上限10万円) ●定置型リチウムイオン蓄電システム:容量1kWh/1万円(上限10万円)など |
上記の通り、令和5年度のスマートハウス補助金については、2023年11月30日付で予算上限に達し、当初予定の交付受付期間を待たずに、受付を終了しております。令和5年度分が早期終了した事実からも、太陽光や蓄電池の需要は義務化も影響し、より高くなっていることがわかりますね。
令和6年度の補助金については、実施の有無も含めて2024年4月以降に川崎市のHPにてお知らせがあるようですので、川崎市で導入を検討されている方は忘れないように確認しましょう。
また、令和5年度と同様の要件となるならば、補助対象となるためには複数機器の組み合わせが必要となります。
組み合わせにはパターンA~Dまであり、例えば新築なら「HEMS」「太陽光発電システム」が必須で、プラス蓄電池などその他機器を1つ以上選択する必要があります。詳しいパターンと機器組み合わせについては、公式HPにフロー図と組み合わせ一覧表があるので、こちらをご参考ください。
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いかがでしたでしょうか?
日本国内の再生可能エネルギーの普及は今後ますます進められていくことは間違いありません。その中でも太陽光発電が選ばれているのは、発電コストが比較的安価であることが大きな要因の1つと言えます。
水力や地熱発電などの場合は、自然環境の影響は受けにくいですが、その分設備導入には少しハードルが高いのが現状です。そのため、初期費用が下がってきている太陽光発電の方が比較的導入しやすく、世界的にも選ばれているのでしょう。
経済メリットと環境配慮。個人の住宅でも、この2点を考えたときには太陽光発電という選択肢をぜひご検討してみてくださいね。
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