最終保障供給とは|安易な申し込みにはリスクが?料金設定と仕組み
いま日本の電力業界では何が起きているのか?
毎月電気料金が値上がりしたり、電力がひっ迫していたり、政府が節電ポイントを始めたり…。
いま、日本の電力業界では一体何が起きているのでしょうか?
今回は、新規申し込み受付を停止または事業撤退などが相次いでいる日本の電力業界の現状から、電力会社から「値上げ交渉」あるいは「事業撤退による契約終了」の連絡があった場合の対応方法について解説します。
今後のためにも、ぜひ一度ご覧ください。
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事業撤退や新規受付を停止する電力会社が続出する理由
多くの電力会社は、日本卸電力取引所(JEPX)より電気を調達して、契約先の需要家に供給しています。しかし、ロシア・ウクライナ抗争に伴う燃料価格高騰が長期化していることで、JEPXの高騰が収まらない状況にあります。
東京エリアプライスの平均価格を見てみると、以下の通り高騰していることがわかります。
2019年:9.79円/kWh
2020年:7.07円/kWh
2021年:14.58円/kWh
2022年:24.95円/kWh
(出典:日本卸電力取引所 2022/7/25時点)
そのため、JEPXが安価であった時に、大手電力会社の通常料金メニューよりも大幅に割引することで契約を獲得していた電力会社は、電気を売れば売るほど(需要家が電気を使えば使うほど)赤字になる“逆ザヤ”の状態が発生してしまいました。
こうした背景があり、現在、事業撤退や新規受付を停止する電力会社が後を絶ちません。
「ウチが契約した電力会社は大丈夫なのか?」と、特に企業などは不安がある方も多いと思います。それでは次に、電力会社から連絡が届く2つのケースを確認してみましょう。
電力会社から連絡が届くケース:値上げ提示/事業撤退
契約している電力会社から、突然「現在契約している単価から値上げをおこなう」「倒産や事業撤退をする」という連絡が突然届いたら、どうすれば良いのでしょうか?
【現契約から値上げする旨の連絡の場合】
2つのパターンが考えられます。
①値上げ単価を受け入れて、継続契約をおこなう
②別の電力会社や大手電力会社へ相見積もりを取る
値上げ単価の提示の場合、どれくらい電気代が上がるのかを確認して、②別の電力会社や東京電力などの大手電力会社へ相見積もりを取るのが一般的かと思います。
ただし、先ほども述べましたが多くの電力会社では現在、新規受付を停止しています。
また、公にはなっていませんが、東京電力エナジーパートナー株式会社でもホームページや約款に記載されている通常の料金メニューでは受付を停止、もしくはJEPXの価格を反映させた「市場連動型プラン」での提案のみ受付をしているという話も聞きます。
実際に、大手電力会社の中でも中部電力や東北電力では、「市場連動型プラン」での新規受付を再開しました。
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【倒産や事業撤退の連絡の場合】
書面などに記載されている電力供給サービス停止日までに、新たな電力会社を探して申し込みをおこなう必要があります。
電力供給サービス停止日までに手続きが間に合わなかったとしても、いきなり電気が使えなくなるということはありません。契約していた電力会社(小売電気事業者)からの電力供給は停止しますが、東京電力パワーグリッド株式会社などの各エリアの一般送配電事業者から電力供給がされます。
ただし、この電力供給は一定の期間を過ぎると停止してしまうので、最終的には自分で新たな電力会社を探し、申し込みをおこなう必要があります。
多くの電力会社が新規受付を停止している中で、契約する電力会社が見つからない場合に最終的なセーフティーネットとして設定されているのが「最終保障供給」です。
それでは、次に「最終保障供給」について詳しくご説明します。
「最終保障供給」とは?|概要やメリット/デメリット
最終保障供給とは、もともと与信不良や会社倒産により電力会社と契約ができない場合のセーフティーネットとして、需要家を保護するための目的で設けられています。
この電力供給の対応に関しては、一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド株式会社など)が、必要に応じて最終保障供給をおこなうことが義務付けられています。
現在、この最後の砦として設けられている最終保障供給に、契約先だった電力会社が倒産または撤退してしまい、新たな電力会社を見つけられない需要家からの申し込みが殺到しています。
なぜなら、本来なら標準料金の1.2倍と割高なはずの最終保障供給が、現在は市場高騰を受けた電力会社が提示する値上げ単価よりも安くなっているという現象が起こっているからです。
経済産業省は、6月15日時点での最終保障契約利用者数は、1万4,407件と発表しており、この数字は1年前の約34倍と異常な数字になっています。
最終保障供給の対象は、高圧や特別高圧の需要家で、一般家庭などの低圧は対象外です。
2016年の電力自由化後、「経過措置料金」として従来から存在する電気料金プラン(東京電力エナジーパートナー株式会社の場合は「従量電灯」など)を残すことが義務付けられました。これがセーフティーネットとなり、最終保障供給の役割を担っているのです。
先を見据えた上で検討が必要?「最終保障供給」の料金設定とは
最終保障供給の料金は、2022年7月25日現在、経済産業省 電気・ガス取引監視等委員会で見直しが検討されています。
そこでまずは現在の一例として、東京エリアの最終保障供給の料金について、東京電力パワーグリッド株式会社がホームページに公開している料金を参考に比較して見てみましょう。
例)最終保障電力A:東京電力パワーグリッド株式会社
例)契約電力500kW未満:東京電力エナジーパートナー株式会社
こうして見ると、通常の電気料金プランよりも最終保障供給が高いことがわかります。しかし、市場高騰を受けた今の電力会社では、最終保障供給よりも高い基本料金・電力量料金で値上げ交渉をおこなわざるを得ないということですね。
最終保障供給料金の見直し状況は?
そもそも、最終保障供給はセーフティーネットとして設けられたものなので、高い・安いと議論になるものではありません。
現在見直しが検討されている最中ですが、従来の最終保障料金をベースに、電力量料金分に関しては卸市場価格と託送料金の差分を補正項として追加することが、5月31日に電気・ガス取引監視等委員会で決まりました。
つまり、市場価格を反映させた形で最終保障供給の料金を設定するということです。こうなると市場高騰時には、電気料金が跳ね上がってしまうというリスクがあります。
では、実際にどうすれば良いのか?電力会社から連絡があった時の対応方法
ここまで、いま電力業界で起こっていることや「最終保障供給」について、ご説明してきました。
最後に、実際に契約先の電力会社から値上げや事業撤退に関する連絡があった場合について、整理していきます。
契約先の電力会社から値上げを提示された場合
・値上げ後の電気料金がどれくらい増加するのかを算出する
・可能であれば契約先の電力会社と単価の交渉をおこなう
・継続契約する
最終保障供給のリスクを考えると、契約先の電力会社が倒産や事業撤退をしない限りは、契約先の値上げ価格を受け入れるか、単価の交渉をおこない継続契約をおこなう方が賢明だと思います。契約中の電力会社と交渉の余地がある場合は、まずはしっかりと検討してみましょう。
契約先の電力会社が倒産や事業撤退の通知を受けた場合
契約先の電力会社が倒産や事業撤退の連絡があった場合、書面などに記載されている電力供給サービス停止日までに、新たな電力会社を探して申し込みをおこないましょう。
※「最終保障供給」のリスクをおさらい
最終保障供給に関しては、制度変更の時期や料金体系の見直しが検討中なので、今のタイミングでの安易な申し込みはリスクがあります。
例えば、契約先の電力会社から値上げ提示がされて最終保障供給の料金よりも高かった場合、最終保障供給へ申し込みをしたくなる気持ちもわかりますが、制度変更が予定されているため、最終保障供給に申し込みをしても電気料金が高値になる可能性があります。
また、セーフティーネットとして定められているものなので、今後市場が安定して各電力会社が安価な料金メニューの提供を再開した際に、最終保障供給を契約していたことにより、与信不良の企業であると見なされる可能性があります。
それでも「最終保障供給」を申し込みたい場合
検討した結果、やむを得ず最終保障供給を申し込む場合は、地域の送配電事業者へ問い合わせをおこない、手続きをする必要があります。供給に関しての条件や料金について合意が得ることができれば、最終保障供給約款に基づき契約内容を定めるという流れになります。
本件については、電気・ガス取引監視等委員会がお問い合わせ先に関してニュースリリースを出していますので、こちらも併せてご確認ください。
☞各エリアの最終保障供給のお申し込み先・お問い合わせ先一覧
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いかがでしたでしょうか?
燃料コストが高騰している中で、生活に関するさまざまな物品も値上がりしており、今まで当たり前に使えていた電気についても同様のことが起きています。
契約先の電力会社から何らかの通知を受け取った際は、焦らずにやるべきことを明確にして、引き続き電気が使えるように対処していきましょう。
今後、最終保障供給に関する制度変更があったら、こちらの記事にも反映させていきます。
【7/28追記】中部電力パワーグリッドの状況
中部電力パワーグリッド株式会社は27日、最終保障供給料金の見直しに向けた検討をおこなうと発表。現行の最終保障供給の料金体系をベースに、卸電力市場価格と連動した形へ見直す。
市場連動分の調整額は「補正項」として最終保障の電力量料金に反映。基本料金は見直しの対象外とし、現行の単価を維持する。
(出典:2022年7月28日電気新聞 中部電力PGが最終保障料金を見直し/全国初、市場連動に移行)
【8/2追記】北陸電力送配電、東北電力ネットワークの状況
北陸電力送配電は1日、市場連動型の最終保障供給料金を9月1日から実施すると発表した。最終保障料金を構成する電力量料金に、補正項として市場価格調整額を追加。
9月分の料金はスポット市場の北陸エリアプライス(7月21日~8月20日)平均値を反映し、市場価格が従量料金を上回る場合は電力量料金が市場価格と連動するよう調整額を加算する。市場価格が確定次第、調整単価をホームページでも通知する。月内に約款変更を申請する見込み。
エリアプライス単純平均値が2019~21年度で最も安い期間の平均値(北陸エリアは20年4月21日~5月20日の3.51円/kWh)を下回った場合、従量料金単価の6分の1を減額するが、北陸電力の標準メニューの2割増しとなっている最終保障料金の水準は下回らない見込みだ。
東北電力ネットワークも1日、見直しに向けた検討に着手したと発表した。
(出典:2022年8月2日電気新聞 最終保障料金、北陸送配電が市場連動を9月から適用/東北NWは見直し検討着手)
【8/4追記】東京電力パワーグリッドの状況
8月3日、東京電力パワーグリッド株式会社より小売電気事業者へ一斉連絡があり、7月20日に開催された電力・ガス基本政策小委員会で取りまとめられた最終保障供給料金の見直しをすることを踏まえ、東京電力エナジーパートナー株式会社が8月2日より標準メニューでの受付再開の見通しを表明した。
これを受けて、東京電力パワーグリッド株式会社は、最終保障供給契約約款の変更および最終保障供給料金の見直しに入るとのこと。
(出典:2022年8月3日東京電力パワーグリッド株式会社|最終保障供給料金の見直しに関する検討状況について)
【8/10追記】東京電力パワーグリッドの状況
8月10日、東京電力パワーグリッド株式会社より小売電気事業者へ、最終保障供給契約約款の変更および最終保障供給料金の変更を経済産業大臣に提出したと連絡がありました。実施予定は9月1日からで、最終保障供給料金は一般社団法人日本卸電力取引所における翌日取引市場価格を参照した補正項を適用し算定するとのことです。
(出典:2022年8月10日東京電力パワーグリッド株式会社|最終保障供給約款の変更届出について)
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